【関大社会安全学部 リレーコラム】「民間の存在感 さらに大きく」

民間の存在感 さらに大きく

今年も台風によって人命が失われました.9月の台風10号では,気象庁は「伊勢湾台風」級の規模,「特別警報」級の勢力という表現を用いて警戒を呼びかけました.死者2名,行方不明者4名という人的被害に加え,九州を中心に多くの爪痕を残しました.被災された皆様に心よりお悔やみとお見舞いを申し上げます.

さて,気象庁が例として用いた「伊勢湾台風」ですが,これは戦後最大の台風災害です.1959(昭和34)年9月26日に上陸し,5,098名の死者・行方不明者を出しました.これ以降,台風で千人を超える犠牲は出ていません.しかし,ここ数年,伊勢湾台風級の巨大台風災害の再来を彷彿とさせる事態が続いています.

こうした中で,私は「安全・安心の価値」を生み出す民間企業の存在に注目しています.例えば,西宮,尼崎,大阪で既往最高潮位(1961(昭和36)年第二室戸台風)を更新した2年前の台風21号では,J R西日本が計画運休を行いました.前日夜に事前告知があったため,出勤や登校を諦めた人も多くいたはずです.危険に身をさらす行為を制限してしまう,こうした民間企業の取り組みは非常に有効でした.

民間企業の存在感は今年の台風10号で一層大きくなりました.コンビニ大手が計画休業を初めて事前告知したほか,外食チェーンなども計画休業を実施しました.客や従業員の安全を確保する動きが,運輸業から小売業や飲食業にも拡大しました.

さらに,ホテルなどの宿泊施設も九州各地で満室になりました.行政が指定した避難所には行きたくなかったが,ホテルなので避難したという方もおられたのではないでしょうか.Go toトラベルにより宿泊料金が割安であったこともこうした動きを後押しした可能性があります.どうすれば避難へのハードルが下げられるか,多くの示唆が得られたと思います.

近い将来の巨大台風災害の発生が現実味を帯びる中で,民間企業の存在感は今後ますます大きくなっていくでしょう.

(産経新聞夕刊令和2年10月19日掲載)