【関大社会安全学部 リレーコラム】「分からないこと」明確にして

新型コロナウイルスの第2波が拡大しています。感染者の数だけを見ると、再度の緊急事態宣言も近いのかな、と思います。一方で、経済活動を維持しないと別の形での被害が拡大するとの意見もありますね。この状況下での、国や自治体の政策判断や企業の経営判断は本当に難しいことだと思います。
疫病も災害の一つです。そこで、災害などのリスク評価を考える講義などで、新型コロナウイルスを題材として利用しました。目の前に実際に存在する問題を学びの題材にすることで、オンライン講義とはいえ、普段よりも良い学びができたのではないかと思うこともあります。一方で、非常に難しいと感じたことは、「わからないこと」をどう捉えるかという点です。PCR検査や抗体検査の精度(感度や特異度)、感染時の免疫獲得の有無、後遺症の有無など、感染リスクを評価する上で重要な事項でありながら、実はまだよくわからないことが多いと思います。しかし、「わからない」という状態は気持ちが悪いので、「ちょっとたちの悪い風邪と同じ」といった単純化したまとめで論考を進めてしまうことが多いように思います。
学生の学期末リポート程度なら乱暴な議論の進め方でも許容されますが、現実世界では困りますね。しかし、自然災害にせよ、疫病にせよ、現実世界の問題ほど、よくわからないなかで議論を進めざるを得ないことが多いと思います。
学生たちは、正解のわからない問題に戸惑っていました。でも、「わからないこと」を明確にして、その上で慎重な論考の結果で得られた結論を当面の正解と考えて対処していくということが必要だと思うのです。
(関西大学社会安全学部教授 一井康二)(2020-08-17・大阪夕刊・夕刊特集掲載)