【関大社会安全学部 リレーコラム】新型コロナ禍に考える避難行動

新型コロナウイルスの感染拡大と緊急対応策の影響はとどまることを知りません。著者は今朝、関空に向かう予定でしたが、インドネシア出張が取りやめになり、休校で自宅にいる子どもたちに見送られながら出勤しました。今、マスクをしながらこの原稿を執筆しています。

誰も経験したことのない事態に対する「漠然とした不安」が事態を一層悪化させています。店頭からトイレットペーパーが消えたのはその好例でしょう。

当初、「トイレットペーパーが手に入らなくなるだろう」という話にまったく根拠はありませんでした。しかし、ひとたび不安が芽生えると、その感情の存在は「現実」となります。そして、その現実に突き動かされて店頭にはトイレットペーパーを買い求める人々であふれ、根拠のなかったはずのことが「現実味」を帯びてきます。そして、その現実味がさらに人々の行動を駆り立て、このサイクルに歯止めが利かなくなった状態です。こうした現象を制御することの難しさを実感しました。

さて、東日本大震災の発生から丸9年が経過しました。津波災害は津波から逃げ切ることができれば助かる災害です。しかし、避難せずに命を落とされた方々が少なくありません。実は、この問題とトイレットペーパー売り切れ現象の問題は非常によく似ています。まだ津波が来襲していない段階で「これから津波が来襲して大変な事態になるだろう」という切迫感を醸成しなければ、私たちの多くは避難行動がとれないからです。しかし、トイレットペーパーの問題と同様に、現状ではこの現象を制御することは困難です。

テレビの緊急報道や住民の取り組みのなかには、切迫感醸成を目指した取り組みが生まれつつあります。とはいえ、まだその対策効果の程は未知数です。今後、ますます調査研究が必要とされています。
(関西大社会安全学部准教授 奥村与志弘)(2020-03-16・産経新聞 大阪夕刊・3ページ掲載)