【関大社会安全学部 リレーコラム】暮らしに開拓の大きな原野

やはり令和の時代も災害を避けては通れなさそうです。9月上旬に上陸した台風15号により東京電力管内で最大93万軒が停電しました。残暑厳しい9月の停電によって自宅でエアコンが使えないと、生活は困難です。熱中症で命を落とされた事例が報道されましたが、真夏の長期停電は、命に関わる問題だと認識しなければなりません。

10月上旬の台風21号では、死者・行方不明者が101名に達しました。上陸前には東京都での大規模な氾濫を警戒する報道が目立ちましたが、宮城県、福島県、千葉県で大きな人的被害が発生しました。地下の電気設備と水道ポンプが冠水した東京都の高層マンションでは、停電、断水が起きました。大規模マンションは一棟で千人以上が生活する場合もあり、自治体はそうした住民が避難所に行くことを想定していません。つまり、それだけの住民を公的な避難所で受け入れる用意はないということです。

現在、気候が極端化する時代を迎えています。真夏や真冬には、多くのエネルギーを消費することによって、私たちはなんとかそれに適応しようとしています。しかし、一度エネルギー供給が絶たれると、建物に構造上の被害がなくても、それはもはや災害です。

今年の夏、あるハウスメーカー幹部にヒアリングしました。その際、これまで追求してきた「構造物としての価値」に加え、これからは「災害時でも平時のように安心して暮らせるという価値」を追求したいという話がありました。社員が被災地に泥かきなどのボランティアに行き、自分たちが売った家で何が起きているのかを目の当たりにします。その経験が商品開発につながるのだそうです。

防災とは私たちの暮らしそのものです。無関係な分野など存在しません。しかし、大部分の分野で防災の視点、安全・安心の視点が欠けています。そこにまだまだ開拓すべき大きな原野が広がっているのです。
(関西大社会安全学部准教授 奥村与志弘)(2019-12-16・産経新聞 大阪夕刊・3ページ掲載)