【関大社会安全学部 リレーコラム】「安全・安心の価値」生む企業必要

今年、伊勢湾台風60年の節目を迎えます。1959(昭和34)年9月26日に紀伊半島先端の串本から上陸した台風は、伊勢湾の海面を通常よりも3・55メートルも上昇させ、堤防の決壊も相まって死者・行方不明者5098名という戦後最大の巨大高潮災害となりました。

巨大災害では、厳しい避難生活を強いられる住民が多くなることによって災害関連死という形で犠牲が拡大します。当時、関連死という概念がなかったため、正確なデータはありませんが、ピーク時の避難者数が32万人の阪神・淡路大震災と47万人の東日本大震災の関連死がそれぞれ919名、3723名であることを踏まえれば、ピーク時の避難者数が50万人超とされている伊勢湾台風でも数千人規模の関連死が発生していたと考えられます。

その後、日本で高潮による巨大災害は発生していません。しかし、昨年9月4日に関西を縦断した台風21号は、南海トラフ巨大地震にばかり気をとられていてはいけないことを知らしめたと言えるでしょう。

この台風は、大阪湾の海面を通常よりも3・02メートルも上昇させました。台風の通過が満潮時刻と重なったことも影響し、梅田に近い淀川大橋では河川の水位が堤防高を約21センチメートル上回りました。防潮鉄扉を閉鎖して浸水は免れたものの、高潮による危険性をまざまざと見せつけられました。

高潮から身を守るためには、台風が接近し、風雨が強くなる前に安全な場所に身を寄せる必要があります。台風21号では、一人ひとりが適切な行動をとるために、民間企業が大きな役割を果たしました。JR西日本による計画運休です。前もって告知されたため、通勤・通学が必要な人びとは風雨が強くなる中を活動せずに済みました。

新しい時代の安全・安心社会には「安全・安心の価値」を生み出す企業の存在が不可欠です。この価値を生み出す企業が、私たちの暮らしを変え、社会を変えていくのです。
(関西大社会安全学部准教授 奥村与志弘)(2019-08-19・産経新聞 大阪夕刊・3ページ掲載)