【関大社会安全学部 リレーコラム】斜面の「水」が地すべりの鍵

土砂災害に関わる災害情報をより精度の高いものとするためには、斜面の計測・モニタリングによって降雨中、さらには降雨後の斜面の状態がどのようになっているかを知ることが重要であることはこれまでも述べたとおりです。では、斜面の計測・モニタリングをすると何がわかるのでしょうか。

斜面の計測・モニタリングは、主に斜面の動き、すなわち変位・変形を測る方法と、斜面内部の「水」、すなわち土中水分・水圧・地下水位などを測る方法があります。

比較的大きな規模でゆっくりと動く地すべりにおいては、その変位を測ることが有効です。しかし、動いたと察知した瞬間にはすでに崩壊してしまっているといったがけ崩れでは、変位の計測ではとても間に合いません。そのような場合は、斜面内の「水」を測ることになります。ただし、この場合、斜面内の「水」の情報と安定の程度の関係を把握しておくことが必要ですが、簡単ではありません。

これまで、実験室では、実物大の斜面を作成して崩壊させる実験も含めて数多くの斜面崩壊実験が実施されており、すでに崩壊直前に斜面がどのような状態になっているかなど多くの知見が得られています。しかし、実際の斜面は、実験室で作成する斜面と違い、地盤が不均質で植物が生い茂っていたりするので、捉えるべき現象は複雑です。よって、「どこ」で「なに」を計測すればよいかということは簡単に決めることができません。また、何か特定の項目さえ測っていればよいというものでもありません。さらに、実際の斜面で崩壊現象を計測・モニタリングで捉えた事例も多くありません。

「計測・モニタリングをしてもその程度なのか」とがっかりされるかもしれませんが、まだまだこれからだといえるでしょう。重要なのは、計測・モニタリングの記録を蓄積していくことだと思います。
(関西大社会安全学部准教授 小山倫史)(2019-02-19・産経新聞 大阪夕刊・3ページ掲載)