【関大社会安全学部 リレーコラム】AI活用へ学習用データ整備を

最近、世の中のいたるところでAI(人工知能)がブームになっており、私の専門分野である土木工学分野においてもAIを老朽化インフラの点検・維持管理や土木構造物の施工現場でどのように活用するかが話題となっています。

土砂災害についてもAIが過去の被災した斜面のデータから、次にどこの斜面がいつ崩壊するといった予測ができれば素晴らしいことです。しかし、このようなレベルに到達するにはまだまだ課題があるように思います。

AIにおいてはまず、膨大にあるデータを「学習」させるという作業が必要で、とても重要なプロセスです。この学習させるデータの「質」と「量」によって、賢いAIにもそうでないAIにもなりえます。例えば、将棋や囲碁の世界では、AIが人間に勝利するということがたびたび起こるようになりましたが、AIが学習しているデータは、過去の人間の対局の記録のみならず、コンピュータ同士を対局させることでさらに膨大な対戦の記録を蓄積・学習しているそうです。

平成30年は土砂災害の発生件数が極めて多い年(10月末時点で3312件)となりましたが、土砂災害は平均して年間1千件程度発生しています。しかし、斜面崩壊の予測のためには、AIが崩壊した個々の斜面の地形・地質や地盤物性のデータや斜面が崩壊する瞬間にどのような状態になっているかの情報を学習する必要がありますが、これらの情報はほとんど取得されておらず、圧倒的に情報が不足しています。

今後、土砂災害の予測にAIを活用するには、学習用のデータとしてどのようなデータを取得・蓄積し、ビッグデータとして整備していくのかを検討する必要があります。あわせて、崩壊した斜面の情報を取得するとともに、斜面の計測・モニタリングにより崩壊する瞬間に何が起きているかを把握する必要があるでしょう。
(関西大社会安全学部准教授 小山倫史)(2018-11-20・産経新聞 大阪夕刊・3ページ掲載)