【関大社会安全学部 リレーコラム】大災害でも奪われないもの

先日、北海道の南西沖に浮かぶ小さく美しい島を訪れました。5月末でしたが、満開の桜が迎えてくれました。表向きの訪問の目的は学会で研究成果を発表することでしたが、実は、私にとってはそれよりも大切な目的がありました。それは25年前に地震と津波によって198人の命が失われた人口2700人ほどのこの「奥尻島」の「いま」を見ることでした。

じっくりと1日かけて島を巡りました。島民の皆さんは互いのことをよく知っており、見たことのない私たちが学会関係者であることは簡単に見分けておられるようでした。私は、島民の皆さんや、「いま」の暮らしについて関心があったので、タクシーに乗ったり、スナックに行ったりして、島民と思われる方々にとにかく話しかけました。そして、島全体が一つの大家族のようなこの島の雰囲気に触れることができました。それは島民ではない私にとってもなんとも言えない心地のいいものでした。

25年前に地震と津波によって多くのものが失われたのは確かですが、奪われなかったこの島の宝は25年たった今でも確かに息づいているように感じました。美しい海・山・空、おいしい海の幸、穏やかな島の皆さん、そして私たちのような外から来たものには分からない、島の皆さんにしか感じることができない宝がたくさんあるのだろうと思いました。災害が起きてしまったとしても、こうした宝を育み、感じることができる環境に戻すことが復興に大切なことなのかもしれません。

奥尻島は、開発の手が入り、金太郎飴(あめ)のようになってしまった観光地が損ないつつあるものを大切にしているように感じました。たくさんの観光客を受け入れられる島ではありません。しかし、それがこの島の魅力を損なわないために大切なのかもしれません。
(関西大社会安全学部准教授 奥村与志弘)(2018-07-17・産経新聞 大阪夕刊・3ページ掲載)