【関大社会安全学部 リレーコラム】安全・安心の新時代の幕開け

東日本大震災の発生から7年が経過しました。この間、被災地の多くの方々と出会い、お話をさせてもらいました。当初、私に対して発せられる言葉にはどれも「悲劇が繰り返されてほしくない」という思いが込められていました。

ところが、3年ほど前から言葉に変化を感じるようになりました。昨年8月の本欄「防災分野以外の知恵不可欠」でも紹介しましたが、一見、防災とは無関係であるような分野で活躍する人たちの話題が多くなったのです。

塩害や少子高齢化の加速などの逆境を逆手に取り、日本中どこを見渡してもやっていないような新しい挑戦をする農家、漁師、医師、水産加工会社の社員など、そこには数多くのヒーローがいました。「挑戦し続ける、変わり続ける」との強い意思には「変わり続ける力」こそが生活、産業、地域の再興に欠かせないという信念がにじみ出ていました。

「変わり続ける力」の種となっていたのは、震災をきっかけにして生まれた多くの出会いでした。地元の人たちと、支援のために国内外から集まった人たちは当初、支援する・支援されるという関係でしたが、気がつけば新しい発想・挑戦を生みだすパートナーとしての関係に変化したようです。もちろん、まだまだ苦しい状況が続いているという声も非常に多くあります。しかし、「助けられる立場」から「助ける立場」になられた方々の活躍が、被災地全体の希望になると期待しています。

現在、南海トラフ巨大地震や首都直下地震などの国難災害が私たちにとって大きな脅威となっています。被災地の言葉の変化は、日本中にある多様な分野の技術やサービスが安全・安心分野に応用され、「変わり続ける力」が強化される時代の幕開けを示唆するものだと確信しています。
(関西大社会安全学部准教授 奥村与志弘)(2018-03-20・産経新聞 大阪夕刊・3ページ掲載)