【関大社会安全学部 リレーコラム】熊本城 復旧には地盤改良も

昨年4月14、16日に発生した熊本地震では、熊本城において重要文化財建造物や石垣に多くの被害が出ました。震災直後からたびたび、熊本城を訪れて石垣の変状調査をしてきました。今回は被害の特徴と今後の復旧・復興に向けた課題を述べたいと思います。

今回の地震では、14日の前震で被害を受け、さらに16日の本震により被害が拡大しました。崩落・孕(はら)み・緩みといった石垣の被害は全体の約30%、うち崩壊に至ったものは全体の約10%に及んでいます。本震時の鉛直上向きの地震加速度が極めて大きく、石材間の摩擦力が低下し、石垣の崩壊が多数発生したと考えられます。すなわち、鉛直上向きの加速度が作用し浮き上がったところに水平の加速度が作用したことが、摩擦性材料である石材や土にとっては致命的であったと考えます。

一方、宇土櫓(うとやぐら)のように崩壊を免れた石垣でも複数個所で石垣の孕み出しや勾配の不自然な変化が認められており、地震前の石垣との比較では、地震後の石垣が前方に押し出されていることをレーザースキャナによる計測で確認しました。地震後1年以上がたち、変状が大きく進行しているものはありませんが、降雨や余震によりさらなる変状の進行がみられないか注意深く経過観察する必要があります。

今後、石垣の復旧・復興に向けては、単に石材を元に戻すだけでは地震などで同様に被災する可能性があり、地盤改良といったある程度の補強をすることが必要であると考えられます。場合によっては、築城当時にはなかった最新の補強技術を適用するということも考えられます。その際は、遺跡保存の基本概念であるオーセンティシティ(真正性)に基づいて、地盤工学的検討を十分実施する必要があります。
(関西大社会安全学部准教授 小山倫史)(2017-09-19・産経新聞 大阪夕刊・3ページ掲載)