【関大社会安全学部 リレーコラム】防災分野以外の知恵不可欠

9月1日は「防災の日」です。今年はこれまでと少し違った発想で防災について考えてみませんか。

1923(大正12)年9月1日に関東大震災は発生しました。今から94年前の出来事です。死者・行方不明者10万5千人は、今でもわが国の災害史の中で最大の数字です。関東大震災では、色々な人々の知恵が被災した人々を救いました。

例えば、安く食事を提供する「大衆食堂」が増えたのは、関東大震災が契機だったそうです。それに合わせて、震災以前は高級だったカレーライスが大衆食堂の代表メニューとなり、庶民の食べ物になったとも言われています。

他にも、挙式と披露宴をひとつのホテル内で行う「ホテルウエディング」。当時は神社で挙式を行うのが一般的でしたが、震災で多くの神社が焼失したため、ホテル内に神社を設置して、結婚式を挙げられるようにしたのが始まりとされています。これらに共通することは、防災の専門家がやったことではないということです。食事を提供するプロ、ホテルでサービスを提供するプロがやったことです。

東日本大震災でも防災の専門家ではない人々の活躍がありました。例えば、塩害を受けた水田を利用して、大豆や綿花を栽培し、仙台産の大豆「仙大豆(せんだいず)」ブランドの菓子や、複数のブランドからコットン製品が販売されています。

関東大震災を上回る国難災害も、今や現実味を帯びた脅威として認識されています。こうした時代を生き抜くためには、一見、防災とは無関係であるようなジャンルから生まれる豊富な知恵が不可欠です。

兵庫県南あわじ市では、地元製造のそうめんを非常食として備蓄したり、避難路をふさぐ危険性のあった空き家を改修し、宿泊施設として活用したりと多様な知恵が地域を活性化し、防災力を高めています。これからの新しい防災の形だと考えています。
(関西大社会安全学部准教授 奥村与志弘)(2017-08-15・産経新聞 大阪夕刊・3ページ掲載)