関西大学 3研究所 研究者インタビュー
行政における法執行のあり方を、
行政法、刑事法、民事法からの
複眼的な研究を通じて明らかにし、
行政の適切なルールづくりを。
01法学研究所「行政における法執行研究班」
発足の経緯について教えてください。
行政の法執行のあり方を探るため、
多様な分野の法学研究者が集い活動を開始
行政法は、行政の組織や活動を定めたり、それが守られない場合の裁判などに関して定めたりする法律などをいいます。法執行の現場では、しばしば行政の活動に関して定められている法律だけでは対処できないような状況が生じています。例えば公営住宅法に明渡の規定があり、借地借家法などとは異なった定めが置かれることがありますが、重病の方が明渡を迫られる場合にどうするか、身寄りのない人が亡くなった場合にその遺品の管理はどうすればよいか。ゴミの処理は廃棄物処理法に則って行われますが、回収される前のゴミを警察が捜査してよいかという問題もあります。こうした場合に、行政法の定めだけでは限界があるという理由から、民事法や刑事法の定めが適用されることがあります。民事法や刑事法の規律がどうなっているかを検討せざるを得ないことがあります。
このように、行政における法執行のなかで行政法に限界がある場合に、行政法の定めと民事法や刑事法の一般的な定めとを組み合わせていくのであれば、それが適切に行われるのはどうすべきか。それを明らかにするには、行政法的な規律と民事法的・刑事法的な規律との違いを探ることがまずもって必要になります。それで、行政法を研究している私が主幹となり、刑事法や民事法を研究している方々とともに「行政における法執行研究班」の活動を始めました。

02研究班で取り組んでいる課題やテーマは何ですか?
班としての活動や成果などについてもお聞かせください。
事例を集めてそれぞれのケースを紐解き
丹念な作業を通じて適切な法執行を模索
研究班では、できるだけ具体的な事例をもとに、テーマである法執行のあり方を考えて、そのルール設計を考察していく作業を行っています。例えば、暴力団事務所の設置やその排除について、暴力団対策法には元々殆ど規定がなく、周辺住民が自分の生命を守るために民事訴訟を提起してきました。行政法的な規律として、都道府県が暴力団排除条例を制定して、暴力団事務所の設置を規制することがありますし、市町村が同じような規制をすることもあります。暴対法には、暴排センターによる団体訴訟制度が定められましたが、それとは別に、市町村が民事訴訟を提起することもありますし、その支援を行うこともあります。なぜ市町村が暴力団事務所の排除に乗り出すのか、警察組織ではない市町村に何ができるのかなどについて、話を聞きに行ったり、それぞれの専門の立場から意見を出し合ったりしています。
ここで留意すべきは、行政法の定めではなく、民事法や刑事法、それも抽象度の高い定めを用いる場合であっても、あくまで行政の法執行が問題となるということです。つまり、それは必ず公共の利益を実現するために行われるものであり、民主主義的なルールに基づいて行われなければならないということです。研究班の活動を通して、公共の役割として相応しいルールの構築を図りたい。つまり、一つ一つの具体的な事例への対応からルールを抽出し、それを明確にしていくことで、最終的には広く運用できるようなものを提示したい。そのような考えで活動に取り組んでいるところです。
03研究所の活動についてどんな目標をお持ちですか?
研究班あるいは、研究員としての意気込みをお聞かせください。
法執行の現場に従事する職員の負担を軽減し、「権力」の適切な行使を伴う行政法の
確立をめざす
地方自治体のなかには、原因は様々ありますが、対応が難しい現場において法を執行することに職員が躊躇し、事態を放置したり黙認したりするといった事態が起こっています。原因を分析して、ルールを明確にしていくことで、そうした困難な状況を少しでも軽減できるように、行政法や民事法・刑事法の進化・深化に努めていきたいと考えています。
行政の法執行として、私は、行政法の分野の一つである警察における最近の変化、即ち、サイバー警察にも注目しています。2022年施行の警察法改正により、重大サイバー事案について警察庁の警察官が捜査できるようになり、警察庁組織令改正でそのための組織も作られました。更に、2025年の警察官職務執行法の改正で、サイバー攻撃を未然に防ぐために、サイバー空間内で攻撃元に侵入しプログラムを停止させるなどの権限が警察官に認められましたが、この権限を発動するための最初の判断は内閣官房内の国家安全保障局が行うことになっています。国家警察による法執行が、それも政府直轄的に行われるかもしれないことを意味します。この分野では、最先端のIT技術も必要ですし、外国の法執行機関や情報機関との協力やインテリジェンスも必要であると言われています。実力行使の組織である警察の法執行さえも従来通りのものではなくなっており、苦心が見られます。しかしながら、警察も含めて、国であれ地方自治体であれ、行政の法執行には常に「権力」が伴うからこそ、それが濫用されないように、民主主義的なルールに基づいて行使されるべきです。状況の変化に応じて、権力行使に相応しい規律を更新していくことも必要になる場合があります。権力行使に相応しい規律をこれからも作り出すことができるような行政法の理論づくりに貢献することが目標です。

PROFILE

荒木 修教授
Professor ARAKI Osamu
関西大学法学部教授。専門分野は行政法。自治体の公共施設の維持・管理や警察的な取締に関する法を対象に研究活動を実施。