研究活動

大阪の災害教訓の抽出とその活用のための防災教育に関する研究

研究代表者 城下 英行 社会安全学部・准教授
研究概要

なにわ大阪の「笑い」に関する調査と研究本研究は、大阪の災害経験から 「必要とされる対策」を明らかにし、その充実化に取り組むことを目的とする。 2018年に大阪を襲った2つの災害を取り上げ、ひろくそれらの災害の教訓を抽出し、教訓を踏まえて必要とされる防災対策の構築を促進するための防災教育に関する研究を行う。

①災害の教訓を抽出、整理する。
②巨大災害発生時に有効となる防災体制を構築するための防災教育手法及び教材の開発する。
③防災教材・コンテンツのさらなる充実化を図る。
④学校での実践を継承し、教育手法の高度化を目指す。


(2019年度) 大阪府下各地の企業や学校などにおいて、大阪北部地震、台風21号の教訓を集めるためのインタビュー等の調査を実施し、防災対策につなげるための防災実践を行う。また防災学習の中で、子どもたちが地域において調査を行い、子どもたちが得た教訓を防災教材のクロスロードとして整理する。さらに、ひろく全国に発信するために防災教材としての映像コンテンツの開発を行う。

(2020年度) 初年次に得られた成果に基づき、大阪北部地震版/台風21号版のクロスロード(映像コンテンツを含む)を用いた防災教育の実践、教育方法ならびに教材の改善を行う。

研究分担者

林武文 総合情報学部・教授

奥村与志弘 社会安全学部・准教授

研究期間 2019年度~2020年度(2年間)

研究成果概要

 本研究では、社会安全学部と総合情報学部の連携を基盤に、①2018年大阪府北部地震の教訓を抽出・整理し、②大阪に被害をもたらす可能性のある災害に関する対策を検討し、③防災教育手法及び教材の開発を行った。

①教訓抽出に関する研究(奥村)
 2018年大阪府北部地震は、気象庁が大阪府下ではじめて震度6弱以上の揺れを観測した地震となった(鶴来ら(1999)は1995年兵庫県南部地震で震度6弱相当の揺れが発生していた可能性を指摘している)。本研究では、死者6名中3名の犠牲の原因となった家具・家電転倒と屋内落下物の発生状況に関するWebアンケート調査を2020年度に実施した。震度6弱が観測された全5市区への調査の結果、家具・家電転倒率(屋内落下物の発生率)は高い順に茨木市47.9%(75.7%)、高槻市32.2%(64.8%)、箕面市20.3%(44.7%)、枚方市19.7%(49.2%)、大阪市北区12.2%(25.7%)であることが分かった。また、家具・家電の転倒率が高かった茨木市、高槻市では重量のある書棚、タンス、食器棚などが転倒しても半数以上が対策されずに元に戻されていたことが分かった。阪神・淡路大震災以降、地震災害が発生する度にその重要性が指摘される家具・家電の転倒防止であるが、その対策が必ずしも十分でなかったことが明らかとなった。

②防災対策検討に関する研究(奥村)
 津波を主な対象とした防災対策の検討では、市街地氾濫時の建造物の影響に関する検討を行った。大阪府の沿岸部は堅牢建物が密集しているため、巨大津波が市街地に氾濫する場合には、周辺建物の影響によって、津波外力が小さくなることもあれば、逆に、大きくなることもある。2019年度に、その影響度の空間的な広がりについて数値実験を用いて明らかにした。また、南海トラフ巨大津波からの避難を見据え、津波避難訓練における行動データを用いた避難対策の研究を進めた。具体的には、人々が集団で避難を開始する過程をモデル化するための基本的なパラメータの定義とその収集を行った。さらに、日常生活における徒歩移動距離と避難場所までの距離感の関係について、質問紙調査などを実施して明らかにした。

③防災教育手法及び教材の開発研究(城下・林)
 総合情報学部・社会安全学部の位置する高槻市での取り組みを中心に、大阪府内の複数の学校において防災教育実践を実施し、防災教育手法及び教材の開発を行った。  
 高槻市内では、第七中学校と五領中学校において、それぞれ一年生が災害の教訓を抽出・共有するためのクロスロード(カード型防災教材)制作に取り組んだ。災害経験等の聞き取りをもとに、災害時に直面したジレンマをカード形式で整理し、そのジレンマをどのように解消するのかについて、皆で話合うことができた。また、二年生については、それぞれの学校でテーマを定め、2020年度について、第七中学校では防災のため地域交流会(コロナ禍のため中止し、資料配付のみ実施)を、五領中学校では地域安全マップ作りをそれぞれ実施し、地域に向けて防災情報を発信した。  
 なお、クロスロードについては、ルールや問題解説のための動画も制作した。総合情報学部の学生が中心となり編集・加工を行ったことで、極めて分かりやすい解説動画を制作することができ、教材としての質を高めることができた。制作したクロスロードについては、地域の小学生や保護者の方を中学校に招いて、実際に防災教育に利用した他、高槻市内の複数の中学校から問い合わせがあり、それらの中学校の授業においても活用されている。また、2020年度については、ビデオ会議を使った学校間の交流会も実施した。  
 また、大阪府泉大津市の浜小学校においても防災教育実践を行った。2020年度は、防災と情報教育の本格的な連携を目指し、「津波AR」の制作を行った。小学5年生が中心となって取り組むことができるものとするために、iPadとAdobe Aeroを活用した。泉大津市の住民の方に津波の怖さを伝え、避難を促進することを目標に取り組み、小学生には、どのような漂流物が流れてくるのかをフィールドワークを通じて検討してもらった。その上でそれら漂流物となる可能性のある物の動画を小学生が撮影し、それを使って総合情報学部の学生が中心となって3次元モデルを制作した。さらに社会安全学部の学生が中心となって、Adobe Aeroを用いたARの使い方を小学生に教え、小学生が3次元モデルを実装し津波ARを完成させた。2020年12月4日に校区内各所で保護者や住民の方にお披露目を行い、極めて高い評価をいただくことができた。
   

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