文学部教員コラム
『思いどおりに』
哲学専修 助教授 三村 尚彦
子供の頃、外科医にあこがれていた。手塚治虫原作の『ブラック・ジャック』に影響されてだ。だが田宮二郎主演のTVドラマ「白い巨塔」を見て医師はたいへんそうだと思い、あきらめた。バスケットボール選手として実業団リーグで活躍することを夢見た時期もあった。しかし自分の身長とスピードでは通用しないことを自覚し、断念した。知の求道者というイメージから哲学者が格好よく思えた。現在、哲学専修の教員となったが、哲学書を細かく読むマニアのようなもので一向に格好よくない(もちろん研究者でいられることを幸せだと感じてはいるが)。こうして振り返ってみると、「思いどおりになったこと」など、ほとんどないと思えてくる。
今年度ふとしたきっかけで文学部総合講座日本学2を担当することになった。「現代日本のファッションと社会」という副題をもつ本講座のコーディネーター役を引き受けたのは、若かりし頃ファッション雑誌(Men's club、ポパイなど)を読み漁り、服について語ることが好きだったからだ。とはいえ、現代の服飾を巡る動向を手がかりにして「日本的なるもの」を論じる力は私にはないので、多彩な講師陣をお招きし、私も一人の聴講者として講義を楽しませてもらった。どの先生も第一線でご活躍されている方々だけに、迫力ある内容だった。特に興味深かったのは、思った以上にビジネスの論理が強く作用している点である。たしかに服が消費財として生産されている限りそれは当然のことだ。しかし一方で、ファッションは「あそび」の部分をもち、自由な創造性と関わるがゆえに商業主義から逃れていく領域でもあるだろうと、私は漠然と考えていたのだ。それだけに「マーケティング」や「ショップ戦略」といった言葉によって解釈されていくファッションというものが強く印象に残ったのである。このように講義を通して「知らない世界」に触れられたことは、自分の中にある固定した視点や価値観を揺さぶる結果になった。「思いもかけない」出会いがもたらす効果と言えるかもしれない。
友人たちと「三つボタン段返りのブレザーに一番似合うネクタイは、レジメンタルストライプだ」などとおしゃべりしていた高校生の時分、ファッションモデルになりたいと思っていた(なんとも夢の定まらない少年時代だ)。今回の講義でファッションショーを企画し、念願かなってモデルの一人としてステージに立つことができた。しかし私が身にまとった衣装は・・・*。世の中、やはり思いどおりにはならないものである。
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