文学部教員コラム

第5回 2004/1/16

『晩会』自賛

                            中国語中国文学専修  教授  井上 泰山

 中国語の学習サークル「晩会」を始めて以来、早くも15年目になる。北京の夕刊(中国語で「晩報」)を学習教材として使用するところから「晩会」と名付けた。もちろん、「晩成」の願いも込められている。毎月一回、第三水曜日の2時40分から5時50分まで、本学図書館3階のグループ閲覧室で例会を開く他、春と夏の休暇中に飛鳥の研修所で合宿形式による2泊3日の「読報会」を行う。合宿は毎回、午前・午後・夜にそれぞれ3時間ずつ、一日合計9時間新聞を読むことに決まっている。

 15年間よく飽きもせず新聞ばかり読み続けられたものと、不思議に思われる向きもあるやもしれないが、これが結構病みつきになる。一回また一回と続けていくうちにいつの間にか15年経ってしまった、というのが偽らざるところである。「晩会」を始めた当初はわずか数名の参加者でスタートしたのだが、回数を重ねる度に徐々に人数が増え始め、近頃は常時延べ20人程度の例会参加者がある。これが合宿ともなると「噂が噂を呼び」「類が友を呼んで」さらに膨れ上がり、春合宿は平均30名、夏合宿の場合は50名程度の参加者であふれることになる。さしづめ、1クラス分の課外教室といった趣である。

 「晩会」が15年間も続いた理由について自分なりに考えてみた。秘訣という程のものではないが、いくつか思い当たる事はある。まず第一に、面倒な「会則」が一切無いこと。設定された一定の時間帯のうち、いつ参加してもよい。遅刻早退反復再来、何でもあり。各自が自分のペースに応じて都合の良い時間帯に参加すればよいのであり、誰からも強要されることはない。予習してきた者が任意に発表者になり、準備がなければ聞き役にまわる。全ては自分の意志にまかされる。要するに「来る者は拒まず、去る者は追わず」の精神を貫いていることが継続の第一の理由であるように思われる。

 二つめの理由として考えられるのは、教材としている北京の夕刊の記事そのものがもつ面白さ。そこには実に多種多様な記事が満載されている。お国がら政治関連のやや堅い記事もあるが、むしろ庶民の生活の息吹を伝えるものが多く、育児や教育、医療や新商品の紹介、国際情勢やスポーツ記事、さらには離婚結婚相談に至るまで、真偽の程を疑いたくなるような怪しい内容も含めて、実に様々な記事を目にすることができる。北京の「今」を如実に感じとることができるのである。

 参加メンバーが多様であることも継続の大きな要因であろう。中国語中国文学科の学生が多いのは事実だが、文学部以外の学生もいる。しかも、全ての学年の学生が参加している。従って年齢も様々である。学部の1回生もいれば大学院生もいる。発足当初から一貫して参加している卒業生もいる。15年続けると当然年齢も15歳上になる。18歳から30代前半まで、年齢・学習歴の差を超えて、全員が一堂に会してひたすら「晩報」を読むのである。年齢の似通った人間が集まる教室とはひと味もふた味も違った自由闊達な学びの場がそこにある。

 物理的な環境が整っていることも忘れてはなるまい。関大の図書館には様々な目的に対応できるだけの機能が備わっている。個人用のスペースは勿論、グループ研究にも応じられる空間が充分に用意されており、事前に手続きをすれば誰でも利用できる。「晩会」の例会を継続できたのは、図書館という快適な空間を活動の拠点として確保できたからに他ならない。事は合宿の場合にもあてはまる。年々参加者が増える傾向にある現状では、多数の人間が集まる空間を確保するのは容易ではない。幸い本学には幾つかの研修施設があり、中でも飛鳥の植田記念館は80名前後収容可能であるため、毎年大勢のメンバーが押し掛けてお世話になっている。常に快適な設備とサービスを提供してくださる教育後援会には、会員ともども足を向けては眠れない。

 今から5年前の夏、「晩会」発足10周年を記念して北京旅行に出かけた。勿論、参加は自由。しかも現地集合、現地解散。期日を決めて現地の留学生らと合流し、北京飯店のロビーに集合。お茶を片手に「北京晩報」を読んだ後(実際に読んだかどうかは忘れてしまった)、新聞の発刊元である北京晩報社を表敬訪問し、全員で記念写真を撮った。徒歩での帰り道、路上で食べたスイカの美味なること、その味は今も舌先に残っている。

 そんな「晩会」もいつしか15年。昨夏、台湾行きの記念行事を企画していたのだが、あいにく例のSARSの影響で渡航を自粛せざるをえなかった。残念ではあるがこれも時の運。いたしかたの無いところであろう。10年、15年とくれば次は20年。漏れ聞いたところによると、台湾に行けなかった分も含めて、有志を中心に何か記念になる行事を企画しているようである。何が出てくるか、楽しみな事ではある。昨年暮れには恒例の「忘年会」も行われ、20名の参加者があった。「忘年会」の場は勿論のこと、普段の例会や合宿を通じて末永く「忘年の交わり」を結びたいと願う今日この頃である。

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