万能素材「DNA」を自在に操り、社会に役立つナノデバイスを創造する

2020.09
葛谷 明紀 教授
化学生命工学部
化学・物質工学科 知能分子学研究室
研究テーマ

DNAをつくる・動かす・使う技術を究め、DNA Origamiや分子ロボットの実用化をめざす

すべての生き物に備わっている遺伝子伝達媒体、DNA。A、T、G、Cの4文字を使って遺伝情報が書き込まれたこの有名な二重らせんを、葛谷教授は生き物とは切り離し、便利で有能なひとつのモノ=分子化合物としてとらえ、利用する研究に取り組んでいます。DNAを人工的に一からつくる技術をベースに、思い通りの文字配列でプログラミングし、天然にはない情報を付加することで、DNAに思惑通りのふるまいをさせるDNA Origamiや分子ロボットを研究開発。人工抗体や人工筋肉など、医療分野での実用化をめざしています。

配列も、新たな文字も。思い通りのDNAを一から生成する

地球上のあらゆる生命に備わり、遺伝子情報を次代へ手渡すバトンの役割を果たしてきたDNA。有名な右巻きの二重らせんはデオキシリボ核酸という化合物であり、ATGCの4文字で表される塩基の配列によって情報が書き込まれた、いわば記録媒体です。4文字にはAの向かい側にT、Gの向かい側にCという基本ルールがあるように、DNAのさまざまな特徴は、長い進化の歴史を経て極限まで最適化されています。この、本来生き物に由来するDNAを、葛谷教授の研究室では、プラスティックのように自由につくり出せる有機化合物、つまり「モノ」としてとらえ、優れた特長を最大限に活用しながら、さまざまな研究開発に取り組んできました。

「昨今DNAは、計算を行うDNAコンピューティングや、ムービーファイルを記録できるDNAメモリなどにも活用されていますが、通常、生き物に由来するDNAが使われるため制約が多くなります。一方、私たちの研究室では、有機化学の技術によって文字一つひとつのレベルから思い通りに配列し、つくり出すことができます。さらに天然にはない文字Xを書き込んだ『修飾DNA』を生成し、天然を超えた機能をもたせることも可能です」。もう一つの大きなアドバンテージが、大量のDNAを低コストでつくる技術をもっていることだと葛谷教授は言います。

「一般的に、研究で扱えるDNAの量はマイクログラム、ナノグラムといった目に見えない微量ですが、知能分子学研究室では目で見て触れることもできる、通常ではありえないボリュームを低コストでつくり出す技術を確立しています。必要な配列のDNAが潤沢に利用できることで、さまざまな研究が加速するのです」。

設計どおりに織り上がる「DNA Origami」を、検査キットや人工抗体へ応用

葛谷教授がトップランナーとして世界中に知られているのが「DNA Origami」の研究です。DNA Origamiとは、ATGCがそれぞれのペアと結合する「自己組織化」という性質を利用して分子の構造体をつくり上げる手法です。非常に長い1本鎖のDNAに、綿密に設計された4文字配列を書き込んでおくと、書き込まれた情報にしたがって、鎖がまるで知能を持っているかのように相手を見つけて引き寄せられていきます。そして織物のように何重にも折りたたまれ、こちらが意図した通りの形に組み上がります。葛谷教授は、このDNA Origamiを使ってDNA Pliers(ペンチ)を作成。特定の分子を見つけると、それを目がけて両方のレバーが近づき、挟んで閉じるという精巧なしくみを開発しました。これによって例えばある種のガンに罹患すると出る化学物質を検知し、挟み込んで形を変え、ガンの存在を知らせるデバイスをつくることもできます。

「現在は、DNA Origamiを用いて健康チェックができる検査キットを企業と共同開発しています。私たちは、あらゆる種類のDNAを自在につくり出す技術があるので、どんな検査対象も検知できるよう、簡単にチューニングやカスタマイズができます。今後はさまざまな機関や企業からのオーダーに対応していきたい」と葛谷教授。現在は、変化したDNAの信号を増幅し、市販の妊娠検査薬のような見える化の方法を検証中です。この原理をさらに応用し、特定の抗原を捕まえて無力化させる人工抗体を低コストで実現できるのでは、と考えています。

薬剤送達デバイス、人工筋肉。
自律するDNAロボットに夢を託す

知能分子学研究室では、目に見えるゼリー状のDNAを用いた研究にも携わっています。DNAにナトリウムを添加すると4本の鎖がからまり、素早く安定的な特殊構造をつくります。この特性を利用し、薬剤送達デバイスの開発に着手。「皮膚などに注入すると、体内のナトリウムと反応して凝固する。抗がん剤などを練り込んでおくと少しずつ放出され、成分を長く効かせ続けることができます。マウスを使った実験でも長時間効果が持続するという結果が出ています」。

葛谷教授は分子ロボティクスにも深く関わり、北海道大学や名古屋大学との共同研究で、世界初の「分子群(ぐん)ロボット」を実現しました。「ロボットは、センサー(ものを感じる)、プロセッサー(情報を処理する)、アクチュエーター(動きをつくりだす)の3つが必要。それを分子でつくります」。イメージしたのは鳥の群れです。鳥たちには司令塔がいるわけではなく、互いの間隔を調整しながら飛んでいるにすぎません。にもかかわらず、群れ全体が知能を持つ生き物のように動きます。「プロセッサーの役割を担うDNAから簡単な信号を送り、分子ロボットに群れをつくらせたり、解散させたりすることに成功しました。これを発展させ、人工筋肉の研究にも取り組んでいます。いずれは人工神経、人工脳をつくることも夢物語ではありません」。

研究をエンカレッジしてくれる環境を得て。
「DNA+〇〇〇」でつくる未来

葛谷教授がDNAと出会ったのは、学生時代に見学した研究室でのこと。先輩たちがDNAの模型を組み立てる様子がパズルのようでおもしろそうだったと言います。「実際に研究を始めてみると、書き込んだ配列通りに動き、思い通りの形になるDNAの魅力に取りつかれました。試行錯誤しながら難しいパズルを解くという点で、あの頃から変わっていないのかもしれません」。現在、DNAロボットやDNA Origamiの世界的な専門家として数々の共同プロジェクトに参画する葛谷教授にとって、関西大学の研究環境は大きなアドバンテージとなっています。「通常は一つの大学に1台しかないような電子顕微鏡や高性能な機器が、学科に一揃えあり、いつでも使える。新しいアイデアをすぐに検証できる、研究者にとって非常に恵まれた環境です」。

今や世界はパズルをどう役立てるかについて考えるフェーズに来ていると葛谷教授は感じています。あらゆる生き物の中に存在する体にやさしい素材でありながら、無機物や金属材料、タンパク質とも思い通りに結合する。信頼できる万能素材を手にし、葛谷教授率いる知能分子学研究室は「DNA+〇〇〇」を変わらぬテーマに、社会に役立つものを生み出し、実用化をめざします。

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