大学執行部リレーコラム

暮らしの中のSDGs

2022.04.27

 大学で教鞭を執る傍ら、兼業農家として休日は農作業に勤しむ生活を送っている。耕作地はいずれも山林に面し、野生動物の生活圏との境界線上にある。そのため、夜は野生動物の宝庫と化す。川面を飛ぶ蛍を眺めるかのごとく、イノシシの親子、小鹿・大鹿を見るのは当たり前。運が良ければサル、狸、キツネなどにも出会える。きび団子を持って行こうものなら桃太郎気分に浸れそうである。
 当然ながら農家にとって獣害は生活に関わる深刻な問題である。ある日、村の田畑をすべて丈夫な金属柵で囲う話が持ち上がった。その数年後、村人総出で柵を作り、獣の入る隙間のない立派な柵が完成した。まさに人間の大勝利である。しかし、長老の心配をよそに、山際にある私の畑には柵を設けなかった。理由は単純。ウリ坊を連れたイノシシ一家を現地でよく見かけており、彼らの生活の大変さに共感を覚えたからである。
 農業は天候によって収量が左右される。寒いと冷害、暑いと乾燥、雨が続くと根腐れを起こす。無計画に植えると連作障害で育ってくれない。その上、無農薬にこだわろうものなら、葉物は害虫にボロボロにされてしまう。手塩にかけて育てた作物を少しは収穫しようと、簡易な電気柵を張り巡らし、細々と畑を守っている。しかし、本業が忙しくなると、田畑はジャングルと化し、バッテリーは上がり、電気柵は役に立たなくなる。そしてまた、野生動物たちが私の畑へと戻ってくる。呑気なことを言っていられるのは関西大学のおかげと感謝しつつ、野生動物たちとの共存の道、SDGsを今後も実践していこうと考えている。

学長補佐 堀井康史