大学執行部リレーコラム

スタート地点に立ち戻って

2021.09.01

副学長 大津留(北川)智恵子

 大学執行部のリレー・コラムは2006年に始まりました。当時、学長補佐として広報を担当することとなった私は、副学長先生の指示を受けながらこの企画の準備を行ったように記憶しています。一教員からみた学長コーナーというのは遠い存在で、何がどのように論じられ、また決められているのかが見えてこない。それならば、大学執行部の構成員のほうから情報発信をすることで、その距離感を埋めていけるのではないか――ずいぶん昔の話なので、私の記憶には誤りがあるかもしれませんが、それ以降、こうしてリレー・コラムが続いていることに、うれしい驚きを感じます。
 距離感といえば、私自身はアメリカ政治を専門とし、その中でも民主主義における連邦議会の役割について研究してきました。大きな大陸に一つの国家が存在するアメリカの場合、首都と自分たちの住む場所との間には物理的な距離感があります。加えて、連邦制度を取っているため、中央と地方の関係は中央集権の日本とは大きく異なり、学生のみなさんにとっては、これがアメリカのわかりにくさの原因になっています。
 全国一律のきまりで動く日本と異なり、アメリカでは州境を一歩超えるだけで、例えば運転免許取得や飲酒可能な年齢や、買い物をした際の税率やその減免の対象まで違います。もっと言えば、同じ一人の大統領を選ぶ選挙でありながら、州によって期日前投票の開始日やその方法、当日投票のために必要になる証明書の基準など、その手続きは大きく異なります。本選挙に挑む候補を選ぶための予備選挙となると、州の違いの上にさらに政党間の違いが加わるため、自国の選挙でありながらすぐ隣の州の制度が全くわからないということも、不思議ではありません。
 2008年に大統領選挙が行われたアメリカでは、前年秋には政党ごとに候補選びの討論会が熱を帯びて展開されていました。当時の大学執行部の任期は3年でしたが、私は2007年秋から在外研究に出ることになっていたため、1年で補佐のお仕事を失礼してワシントンに向かいました。
 目の前で繰り広げられる民主党予備選挙では、アメリカ史上初の女性大統領が生まれるのか、あるいは同じく史上初のアフリカ系大統領が生まれるのかという、まさに歴史が作られる瞬間を誰もが固唾を飲んで見守っていました。結局、女性大統領の誕生はしばらくお預けとなり、選挙戦からの撤退を表明するヒラリーの姿を、会場に駆けつけてこの目で見、耳で聞いた記憶は今でも鮮やかに残っています。当時は、もう一度敗北を宣言するヒラリーを見ることになるとは思ってもいませんでしたが。
 筆が乗ってきたところですが、この続きは次回以降のコラムに預けることにいたします。



日本が寄贈した桜もほころぶタイダルベスン畔のジェファソン記念堂 ©大津留
日本が寄贈した桜もほころぶタイダルベスン畔のジェファソン記念堂 ©大津留