室報第31号
■人権問題研究室室報第31号
 (2003年6月発行)
2002年女性学・
ジェンダー研究フォーラムの様子
2002年女性学・ ジェンダー研究フォーラムの様子

「社会的マジョリティ」 対象の複数外国語教育への視点
        ― ヨーロッパ統合にみる試み ―

杉谷眞佐子(外国語教育研究機構教授)

 ヨーロッパ連合(EU)は、イラク戦争による深刻な意見対立を経験しつつも統合 の過程は停滞にはいたらないようで、中東欧諸国の加盟により2004年より25カ 国体制を創り出そうとしている。EUといえば日本では一般に共通通貨「ユーロ」 導入の報道に象徴されたように経済面での統合が注目されているが、外国語教 育政策でも斬新な試みが見られる。
 EUは周知のように第二次大戦後、ドイツの基幹産業である石炭・鉄鋼を共同管 理すべく設立された「欧州石炭鉄鋼共同体」が具体的契機となっている。その後 「欧州経済共同体」(EEC)「欧州共同体」(EC)を経て、従来なかった新しい視 点、即ち「欧州市民」(Citizenship of the Union)という核概念を明確に打ち 出し1993年11月に発効したマーストリヒト条約により誕生した。統合は経済面 での規模拡大、政治面での発言力強化を狙っておりその意味で「ヨーロッパ中心 主義」の発現でもある。同時に、対立と戦争の長い歴史に終止符を打ち「国民国 家」を越え平和と共存を目指す理念の歴史的実験の場でもある。それを端的に示 すのが、人権とならび言語・文化の相互尊重を謳う「言語・文化の多様性維持の 原則」であろう。
 EU発足時加盟15カ国は英語を共通語とする選択肢もあり、またその方が遥か に経済的にも情報伝達(速度)的にも効率は良かった。しかし「多様性維持の原 則」により、敢えて11言語を「公用語」としたことは良く知られている。そのため通 訳・翻訳にかかる費用は膨大で、例えば「欧州経済共同体」当時15人であった専 門家の数は現在4,000人近くに増えている。或る計算によると1999年の活動 費用はEU市民1人2ユーロの負担となり、2004年の中東欧諸国の加盟により公 用語は20言語に増え、その追加費用も計上されているという。世界的不況が続く なか、このような費用はしかし加盟諸国の市民や政治家から「民主主義のコス ト」として受け容れられているようである。
 このような多言語状況は一部政治家のみの問題ではなく、欧州市民全体の課 題でもあり、加盟諸国の文部省は学校教育での外国語教育を拡充している。例 えばドイツでは伝統的に移民労働者や難民の子供たちを対象とした母語・出自言 語や「第2言語としてのドイツ語」教育が重視されてきたが、そのようないわば「補 償教育」的な観点と並び、「社会的マジョリティ」対象に複数言語教育を進める政 策も展開されている。
共通の外国語教育の推進はEUの行政機関にあたる「欧州委員会」の1部局「教 育・文化総局」で扱われる重要課題の一つで、ERASMUS,COMENlUS、LIN GUAなどの促進策に多額の予算が充てられている。そのような助成では「EU域 内での『母語話者が多い言語』以外の言語を含めた企画」が優先されるなど「少 数」言語や中東欧言語の学習も支援され、採択のプログラムにはイギリス、ドイ ツ、ハンガリーの大学所属の言語関係の機関や異文化コミュニケーション研究所 が主要コーディネータとなり、英語・ドイツ語・フィンランド語・ハンガリー語の4言 語を対象とした教授法・教材開発の企画なども見られる。
 個人の複数言語能力を重視する立場は、1995年のEU教育白書からも読み 取れる。そこでは「欧州市民は一般教育・職業教育を問わず、母語のほか域内の 最低2言語を習得すべきである」と「3言語主義の原則」が提唱されている。そして 2001年を「欧州言語年」と定義し一連の外国語学習促進の企画を打ち出した。 なかでも注目されるのは「ヨーロッパ言語ポートフォリオ」(European Language Portfolio,ELP)の開発・導入で、学校や学校以外での外国語学習履歴、運用力 に対する自己・他者評価の記録、外国語での作文や諸作品を集めた「資料集」 の総体を意味する。このELPは単なる趣味のためにあるのではない。先ず学校 教育では、学習者個人の系統的な運用力評価のほか「外国語の学習方法を学 習する」ための手段としても活用され、例えばドイツでは各州文部省が工夫して初 等・中等教育段階で試行導入している。写真(1)はヘッセン州の5〜 6年生対象 のELPの一頁である。
 次に「国境を越える能力」育成が挙げられる。留学、企業研修、就職の際にELP を活用することが目標とされている。しかしそのためには各言語に共通し、且つ、 各国で共通に利用可能な評価基準が必要である。ヨーロッパ協議会(Council of  Europe)はそのための「ヨーロッパ共通の言語学習・教授・運用力評価のための フレームワーク」を開発し各国語で公開した。学校で使用されるELPもこの枠組 みに準じて作成される。このようにして個々人が運用力・運用領域の開きはあっ ても2言語を学習すれば、社会全体で使用される外国語は多様化し、文化の多 様化も促進され得る。ヨーロッパでは「個人の多言語化」のみでなく「社会の多言 語化」も追求されている。このように統合は「国境」に守られなくなった「社会的マ ジョリティ」に対する大きな挑戦をも意味しているのである。しかし同時に「異文化 共存のための外国語教育は平和教育の重要な手段である」とし相互に言語学習 を推進した戦後間もないヨーロッパ協議会の精神が、改めて認識されているとも いえるのである。
 
ヘッセン州
ヘッセン州「言語ポートフォリオ」からの1例:「友達と話す言語は?」「学校で習う言語は?」「街で聞いたことがある言語は?」などの問いで、言語の多様性への意識を高める。
「欧州言語年」のロゴマーク
「欧州言語年」のロゴマークhttp://www.na-bibb.de/ejs/logo_download.htm
「ヨーロッパ共通の言語学習〜」
「ヨーロッパ共通の言語学習・教授・運用力評価のためのフレームワーク」(ドイツ語版 2001年)
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福祉機器開発にみる障害者の人権  

阿波啓造(工学部助教授)

 福祉工学とは障害者、肢体不自由者のリハビリテーションにおいて使用される 工学・技術を云う。リハビリテーションは疾病、交通事故などによって生じた身体 的機能障害の回復を図り、これに起因する社会的障壁をクリアすることである。ま たリハビリテーションとは、治療、障害の評価・訓練(身体残存機能、日常生活動 作、職業など)、社会復帰、の各段階からなり、これらの過程で利用される工学・ 技術を福祉工学と定義する。疾病治療に関連した工学領域は医用工学であり除 外される。よって福祉工学の領域は機能障害を評価し訓練する際に使用される 工学・技術、機能障害を直接に補完する工学・技術、さらにハンディキャップを克 服するために使用する工学・技術とが含まれる。しかし本当のリハビリの目的は これだけだろうか。
 さて人体の仕組みの素晴らしさは、周知の事実であるが、筋肉、骨と脳の係わ りについては特に重要である。筋肉は使わなければ細くなる。いわゆる廃用症候 群といわれる。鍛えれば太くなるが、筋繊維の量は変わらない。脳梗塞、頚椎損 傷による筋肉の場合、神経が切れると筋繊維が無くなってしまう。骨の場合は破 骨細胞と骨芽細胞がバランスよく機能して骨を再生するのだが、寝たきりとなって は破骨細胞のみが働き、カルシュウムが尿となって体外へ流出し、骨はどんどん 細くなってしまう。ジョギングなど骨にストレスを与えることによって、血中のカルシ ュウムが取り込まれ、骨芽細胞が骨を再生し丈夫にしている。宇宙飛行士の船内 運動は真に以上の実行である。また神経の再生は1mm/dayと言われる。した がって機能を失った右腕の再生には時間がかかる。しかし左腕を訓練することに よって、機能を高め3ケ月で右腕に代わりうるという。すなわちリハビリテーション 工学とは、失った機能を回復するためのトレーニングに関する工学ではなく、新し い機能を創出する工学といえる。米国における一人の障害者を紹介しよう。下半 身切断の重い障害を受けた男性が、最後に装具と杖によって歩行し社会復帰を 成し遂げている。1960年代半ばの米国における不屈のリハビリテーションの精 神を最初に体現したお話である。本人にとってそのショックは如何に大きかったで あろうか。本人のがんばりと努力によって、足に代わって腕がその機能をつとめ、 ポリバケツを結わえた車椅子に体を挿入固定し、病院内を走行されたようであ る。この例を見るにつけ、すなわち障害者本人も、医師、看護婦、機能回復に関 る環境の全てが、人間の回復機能の素晴らしさを認識し、信じ、あきらめないこと である。
 それでは我々は、障害者の人たちの失われた機能回復にどのような手助けが できるのだろうか。例えば完全自動化された階段昇降可能な車椅子の開発につ いて考えてみると、確かに有用であり健常人でも使ってみようと思うに違いない。 しかし一方、歩くことによって健康を保とうとする動きがあることも確かである。あ る福祉施設に、ある企業により盲導犬ロボットが持ち込まれたが、この盲導犬ロ ボットはインテリジェントディスオベイ機能を有し、危険が予測できるとき、交差点 での信号を全て赤にする機能をも持ち合わせている。しかし市中、障害者とロボ ットの単独歩行はリスクが大きすぎる。前述の車椅子にしても階段登行は比較的 どのような方法にしても可能であるが、降りは滑落の危険を回避せねばならな い。すなわち、福祉機器は、安全が第一であり、その開発には、大きなリスクを負 わねばならない。
試作中のパワーアシスト機械
試作中のパワーアシスト機械
 しかしこの開発に臆病であってはならないのである。開発に 携わる個人、企業は積極的に開発、研究を行うべきである。なぜな ら、リハビリテーションの目的が単なる機能回復訓練、社会復帰 へ向けたものではなく、人間の権利、資格、名誉の回復という、 全人格に関るものであり、障害をもった人が人間らしく生きる権 利の回復、すなわち全人間的復権であるからである。機能回復 のための訓練は、その人のかけがえの無い人生にとって負担と なりかねない。負担を強いてはならない。福祉機器の開発は、現 代の最高の医学と科学技術を担っている人々によって為される べきである。なぜなら、障害を持ってしまった人々の人間らしく生 きる権利の復権を達成するためのバックアップがあってこそ、い や社会全体の個々人のバックアップがあってこそ、はじめて真の 目的の達成が可能となると思われるのである。
試作中のパワーアシスト機械
試作中のパワーアシスト機械
 我々は介添えのいらない階段昇降可能な車椅子の開発、人 に優しい初動負荷理論を応用したリハビリ・トレーニング機器の 開発、人と協調して運動するパワーアシスト機械と歩行器の開 発を、ヒューマンセンタードの考え;人を中心にした人に優しい機 械の開発、を基本理念として、開発研究を行っている。図に試作 機パワーアシスト機械のプロトタイプを示す。
 
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「日本的」平等の第2ステージがはじまった
2002年女性学・ジェンダー研究フォーラムに参加して

金谷千慧子(委嘱研究員)

 
 T 概要

 今年のテーマは「21世紀の男女平等・開発・平和―社会に参画する」であった。繰 り広げられたワークショップの数は126、昨年より25%増し、参加人数も同じ比 率で増えている。男女平等の第2ステージが全国的に広がっている。21世紀に 入り世界を巻き込
国立女性教育会館
独立行政法人 国立女性教育会館(NWEC)
んだテロや戦争で、多くが犠牲になっている。難民になったり、 教育を受けられないなどさまざまな制約を受け、悲惨な 状況に追い込まれている女性も少なくない。わが国でも 経済不況に伴う雇用不安・社会不安が広がっている。そ れらの不安な世情を吹き飛ばすかのように女性は全国 津々浦々で動いているのがよく見えた集会であった。激 動の国際情勢、少子高齢化社会の進展や長引く経済不 況など社会経済情勢の変化に対応するためにも、どうす ればより多くの女性が社会に参画し、社会の流れを変えていくことができるのか、 その実践方法を交流する機会であった。
 1999年成立した男女共同参画社会基本法に基づいて男女共同参画を形成す るための政治、行政、あるいは経済・地域活動など、それぞれ課題に対して、女 性自身の具体的行動にエンジンがかかりはじめている。今、男女共同参画社会 の実現が最重要謀題と位置づけられており、それには男女がお互いに人権を尊 重しつつ、責任も分かち合い、その個性と能力を十分に発揮できる社会を再構築 する、というのが目標になっている。しかし、これらの動きはきわめて「日本的」と いうか、かなり「個」が成長してきたとはいえ、「公」が主導の女性運動という感を 免れない。「日本的」平等の第1ステージの平等とは、もちろん、第2次世界大戦 後の半世紀まえの戦後民主主義の時代であり、そして第2ステージとは、国連世 界女性会議を経た21世紀のスタート期の今である。
国立女性教育会館
独立行政法人 国立女性教育会館(NWEC)
 U今年のフォーラムの4つの特徴

 今年のフォーラムの特徴をまとめると4つになるのではないか。
 第1に相変わらず行政からの参加者が多い。
行政課題としては、「行動計画」から「条例」の制定に動いている。ワ ークショップのテーマをみると、「『私』のまちの男女共同参画条例・計 画ー調査結果から見えた現状報告と情報交換」(大阪府)、「女らしく から私らしくへー男女共同参画推進条例の可能性を探る「(鹿児島 県)、「市民による男女共同参画条例への取り組みー松江市より」(島 根県)などなどで、県レベルの条例制定が30を超えた現在、女性行 動計画をよりポジティプに実践するための条例がテーマとなっている。
 第2の特徴として、条例制定への次のステップとして地方議会へ女 性をどうしたら送り込めるかというテーマで具体策を模索しているグ ループが増えたことである。「女性を議会へ―― 統ー地方選挙に向けて」(大阪府)、 「女性を議会に!出前講座一私たちは、こうして議員になりました」(埼玉県)、「立 っていいとも!!女性議員0議会をなくそう」(大分)などなど。
 第3の特徴としては、NPOの参加者が増えたということである。「社会参画 わ たし流」(NPO法人みずら)、「NPO法人は立ち上げたけれどーNPO法人の上手 な運営とは」(京都府)とか、その他自分たちのNPO法人としての活動をアピール するワークショップが多かった。いよいよNPOの時代の到来という イメージがある。
 4つ目の特徴は、就業に関わるワークショップが増えたことである。
 昨年2001年度は「働いて生きる」がテーマであったこともあり、100近いワーク ショップのなかで、「雇用労働の現状」や「多様な働き方」というテーマが20あり、 就業に付随して「働くことと家庭責任」とか「アンペイドワークなども数個あり、NP Oを「新しい働き方」(愛知県)と位置づけるワークショップも一つあった。しかしま だNGO/NPOは日本の男女共同参画に対する活動には大きく影響を与えてい ない様子であった。ところが2002年度では、NGO/NPOは就業の一つとして紹 介されることが増えたし、働くことをテーマにしたワークショップも10個になってい る。これは特集にした昨年よりは少ないが、近年次第に「女性と労働問題」が増え てきている一つの表れでもある。しかし、一方で労働・経済界では、過酷な労働実 態に女性たちが立ち向かっていたり、ポジティプアクションで管埋職への登用が 進んでいるにも関わらず、文部省関連で活躍する女性にとっては、まだまだ個人 の経済的自立よりも、行政や自治体とつながりをもちながら行政へのボランティア 参加が主流であるという状況である。

 V参加したワークショップニつ

 私が主催したワークショップは、「女性の起業が日本を救う」というテーマで、女 性が起業する場合に、無担保で銀行が融資をする制度を紹介した。現在世界の 70カ国以上で実施されているこの源流は、世界で最貧国であるバングラディッシ ュのグラミン銀行(総裁ムハメド・ユヌス博士・1982年)である。このマイクロクレ ジット方式が女性に力を与え、産業復興に多大な利益があると実感した先進諸国 をはじめとする世界70カ国で、この制度が活用されている。カナダやアメリカも制 度を導入した国である。わが国では、完全失業率が5.4%(375万人)という数 字を前にしても、特に女性に事業をさせ、新しい産業を勃興させようと云う特別の 施策が実現していない。わが国でも神奈川で信用組合を作りワーカーズコレク ティブなど女性の起業に支援をしているWCC(女性市民信用金庫準備会)がある が、銀行として認められるには至っていない。そこの代表者向田瑛子さんと共同 でワークショップを実施した。
 参加したワークショップは、「経済活動としての売買春と経済人としての売春婦 (夫)」というテーマであった。旅行会社をやっている男性が問題提起者となり、い つまでも「倫理的にけしからん」 というだけでは、売買春の根の深さには対応でき ない。あるがままに認めた上で、病気や暴力に歯止めをかけるべきだと云う意見 であった。このような問題提起は何度も出るが、それ以上はなかなか進まないの が、この問題の日本における難しさである。
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中小企業政策の転換と部落の産業経済・企業の発展課題
     

田中 充(経済学部教授)

 
 21世紀は、人々がお互いの人権を理解して認めあったところの“調和”と“共 生”の時代だと言われてきました。それを裏切るかのように、産業経済社会では “強者”=“勝ち組”と“弱者”=“負け組”とに分けて、“強者”=“勝ち組”になるた めの生き残り戦略・方法などがなりふりかまわず喧伝されるようになってきていま す。これを実証するかのように、いや、この理論を実践するために、新『中小企業 基本法』(1999.12)が『旧法』(1963.7)にとって変わりました。政府は、“改 正”とうたっていますが、その理念・内容からみて、“弱者”切り捨て策であるとこ ろのまさに“改悪” ーことに部落の産業や企業に対してはー なのです!
 筆者は、部落問題の産業経済的側面として、日本経済における“二重構造問 題”(上層に近代的に発達した部門と下層に非近代的で遅れた部門が広がってい る)=“格差の是正”が、『旧法』、したがって『同和対策審議会答申』(1965.8) における基本的かつ崇高な命題であり、究極目標であったことを強調指摘してき ました。“二重構造”は解消されたのでしょうか?『旧法』の理念=基本的目標とし ていた“格差の是正”はもはや達成されたので『新法』にとって変えたのでしょう か?いな、“二重構造問題”=“格差”は是正されるどころか、ますます産業経済 社会は“明”と“暗”ヘと二極分化=格差は拡大してきています。筆者を含めてこ れまでに行ってきた部落の産業経済・企業に関する実態調査研究が、このことを ますます明確にしてきています。このようなゆゆしき現象は、現代資本主義の構 造的予盾の表面化、そして、それを助長せしめているともいうべき国家施策などと 決して無関係ではありません。加えて、今日のように経済効率主義が蔓延・浸透 してきている過程では、もはや、部落の産業や企業などについても“二重構造問 題”との関連で位置づけるという基本的姿勢は全く失われてしまっているのです。 同和対策=部落の産業経済・企業施策なども“特別”から“地域”ヘ、そして、今 や一般施策の中へと縮小・消滅への道をひた走っています。世は“メガ・コンペテ ィション”=大競争の時代という新たなる世紀の幕開けとともに、その実は、まさに “弱肉強食”の時代に突入しているのです。不当な歴史的・社会的差別に苦しみ、 ハンディを背負わされてきた部落の産業や企業などを、もはや旧態の中小・零細 企業などとみなして淘汰せしめようとしているのです。
 筆者は、明治以降の日本的資本主義経済の発展推移の過程で“差別の再生産 構造”は作られてきているということを問題指摘してきました。それが、今やこのよ うにして、さらに強化されてきているのです。このような“基本的人権無視政策”が 産業経済面において表面化してきているさなか、新『中小企業基本法』をいかに 有効かつ積極的にキャッチしていくか、さらに、『新法』の持つ問題性を改正させ ていくかということもまた、今後の部落の産業経済・企業の発展課題になってくる でしょう。
 部落の産業・企業すべてが国民の文化生活を担っているという自負のもとに、
拙著『日本の経済構造と部落産業』(関西大学出版部)
拙著『日本の経済構造と部落産業』(関西大学出版部)            
将来ビンョンを持たなければなりませんが、それを可能ならしめるためのさらなる 行政支援と国民のサポートが必要です。筆者が参加報告した“20 02年度スイス国際中小企業学会”で、「“被差別者層の小・零細 企業”ヘの理解と良好な“ビジネスチャンス”を提供する基盤作り =人権施策こそが緊急課題である」と、参加者全員が力強く提言 したことでした。
 
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編 集 後 記

石本清英(社会学部教授)

 1995年より始まった本研究室の公開講座も来年は10周年となる。本年度も興 味深いテーマが並び、公開講座はスタートした。
 
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