第140冊 企業情報と社会の制度転換I (2005.3.31)

I 環境情報開示制度と企業の情報開示実務
―オーストラリアにおける制度の導入と環境情報開示実務の変化―
阪 智香 委嘱研究員
II 日本における環境会計の企業内部管理面での有効活用について 中嶌道靖 研究員
III 松下電器グループの環境経営 今井伸一 委嘱研究員
IV IT革命と企業経営形態の変容
〜リアルとバーチャルからハイパーへの展開〜
王 耀鐘 研究員
V 企業のリスク情報の開示について 笹倉淳史 研究員

要約

この研究は法や慣習などの「制度」と情報の関係を様々な角度から取りあげることを目的として、特に、制度は情報をどのように変化させたのか、あるいは逆に、情報によって社会制度がどのように変化するのかを多面的に考察することを試みた研究である。このような研究の中で、重要と考えたものの一つに環境会計あるいは経営の研究がある。環境会計とは、企業等が持続可能な発展を目指して、環境保全への取組を効率的・効果的に推進していくことを目的として、環境保全のためのコストとその活動により得られた効果を認識し、可能な限り定量的に測定し伝達する仕組みである。このような研究として、阪研究員によって「環境情報開示制度と企業の情報開示実務」、中嶌研究員によって「日本における環境会計の企業内部管理面での有効活用について」、今井研究員によって「松下電器グループの環境経営」の研究成果を得た。

また、情報と社会制度の転換の関わりの研究はこれ以外の領域においても多くの領域で進行中で、たとえば、リスク情報の開示が強制されたことによって、一層充実したリスク情報をもとにして利害関係者はその意志決定を行うことが可能となる。このような研究は笹倉研究員によって「企業のリスク情報の開示について」の研究成果を得た。また、IT(情報技術)が特に企業経営の様々な分野に浸透し企業の経営形態を大きく変容させているが、王研究員によって「IT革命と企業経営形態の変容」の研究成果を得た。

第139冊 国際ビジネスの研究II (2005.3.31)

I グローバル時代の日本の裁判外紛争解決制度の現状と改革 大貫雅晴 委嘱研究員
II グローバリゼーションとグローバルヒストリー 奥 和義 研究員
III グローバル経済と地域農業振興の動向 樫原正澄 研究員
IV グローバリゼーションと事業進化
―概念整理と問題提起―
小松陽一 研究員
V わが国証明制度の国際化の現状 松本祥尚 研究員
VI 地方中小零細貿易業者のトレード・タームズ使用に関する時系列分析
―愛媛県地域でのアンケート調査より―
吉田友之 研究員
VII 現代グローバリゼーション考
―その一試論―
羽鳥敬彦 研究員

要約

21世紀を迎えた今日、国際ビジネスを取り巻く環境は激変している。この結果、国際ビジネスから生じる諸問題は従前にも増して一層多元化・複雑化・高度化の様相を呈してきている。国際ビジネスから生じる問題を研究対象にするとしてもその範囲は余りにも広く、あえて一つの研究課題に絞り込み、専攻分野や研究領域の異なる各研究員がその課題について取り組むより、各研究員が各自の専門分野から捉えた国際ビジネスに係わって生じる諸問題と向き合い、それらの解決の糸口を多角的・複眼的に探求するほうがよいのではないかと考えた。

本双書では、国際ビジネスに係わる諸問題に対して各研究員が、国際経済関係論的観点から、国際貿易論的観点から、国際経営戦略論的観点から、国際会計論的観点から、農業経済学的観点から、国際商事紛争解決論的観点から、貿易商務論的観点からそれぞれアプローチした成果の一部を掲載した。

第138冊 世代間の自立・協力・公正 ―少子高齢化社会における雇用・年金・保険・家族― (2005.3.31)

I 日本人口の少子高齢化 松下敬一郎 研究員
II 世代間の自立・協力・公正 松下敬一郎 研究員
ジョン P. レイトナー 研究員
III 高齢者就業意欲促進のための雇用保険制度と年金制度の関係 佐々木勝 委嘱研究員
IV 年齢別保険料の合理性について 一圓光彌 研究員
田畑雄紀 研究員
V 私的年金としての個人年金保険 徳常泰之 研究員
VI 中高年男性の不安
―家族構成を軸としたパネルデータ分析―
松浦民恵 委嘱研究員

要約

少子高齢化社会における世代間の経済関係に着目し、世代間の自立・協力・公正を基礎的な視点として、家族形成、労働市場、年金、保険、生涯経済設計の研究分野について研究分担者の研究成果が示されている。第1章は、日本人口の少子高齢化についてその特徴を示している。第2章は、ライフサイクル・モデルと世代重複モデルを軸に、経済学的な視点から世代間の「自立」、「協力」、「公正」について基本的な概念を示している。第3章は、雇用保険および年金が60歳退職、60–64歳における求職および就業に対してどのような影響を与えるかについて、労働供給に関するサーチ・モデルを用いて分析している。第4章は、国民年金の年齢別未納率や世代間の公平性を考慮して、公的年金制度に対する信頼確保のための年齢別保険料の試算結果を示している。第5章では、公的年金を補完する私的年金、とりわけ生命保険会社が販売している個人年金保険の動向と問題点を示している。第6章は、「暮らしと生活設計に関する調査」の分析結果として、中高年男性の不安意識にみられる健康・経済・人間関係の3因子の特徴と相互関係を示している。

第137冊 社会的革新と地域活性化 (2005.3.31)

I 関西社会の活性化をどう捉えるか 萩尾千里 研究員
髙瀬武典 研究員
II 地域社会・経済システムの動態的変化とサービス業の活性化役割 廣田俊郎 研究員
III 東大阪市中小製造業活性化
―東大阪市高井田地区調査から見た処方箋―
大西正曹 研究員
IV 地域的中心都市の中心市街地の再生をめぐる都市政策の展開と動向
―イギリス都市の事例から―
伊東 理 研究員
V 人が他人を信じるとき
―社会関係資本と地域の活性化―
与謝野有紀 研究員
林 直保子 研究員
VI エンプロイヤビリティの可能性
〜活性化との関連から〜
森田雅也 研究員
VII 日本の事業所組織における規模変化と終身雇用の実態
―組織活性化の背景要因の変遷
髙瀬武典 研究員

要約

第1章で萩尾と髙瀬は関西の活性化にとって必要な条件と、「活性化」についての枠組み、そして本書収録論文の位置付けについて論じた。

第2章で廣田は、上場企業を対象に「サービス価値向上のための戦略・組織、システムに関する質問票調査」を実施し、サービス業が地域社会・経済システムの活性化に対して果たす役割について「経済的貢献・自社へのフィードバック・問題状況への対応・社会的貢献」の類型化を行った。

第3章で大西は、東大阪市の工場組織に関する実態調査をもとに活性化に向けた方策として中小企業の独立化、企業グループの形成、企業間ならびに官民連携による設備活用を提案した。

第4章で伊東は英国訪問調査により、1990年代以降英国における都市活性化の成功例である、各都市における小売業の「タウン・シティセンター」の動向実態と成功要因を研究し、大阪における小売業活性化に向けての留意点を指摘した。

第5章で与謝野と林は、全国の20歳以上を対象にした「信頼感」に関する調査結果をもとに、「信頼の解き放ち理論」の前提となる事実認識が支持を得られないものであることを示した。このことは、個人間競争を通じた経済活性化という、よく見受けられる政策的提案の妥当性に疑問を抱かせるものである。

第6章で森田は日米欧におけるエンプロイヤビリティの展開を比較し、人事制度に組み込むための条件について考察した。

第7章で髙瀬は、過去の事業所組織と雇用関係の統計分析をすすめて、組織からの個人への束縛作用が、官僚制的な束縛と終身雇用的関係からの束縛という両方の点から見て軽減の傾向にあり、組織活性化を促進する背景的状況が生まれていることを明らかにした。