第115冊 創造型適応組織の研究 (1999.3.31)
I 創造型適応企業とパワーパラドックスマネジメント | 小松陽一 研究員 |
II 創造型適応組織における経営戦力とリスク | 亀井克之 研究員 |
III 情報ネットワークと知識連鎖 | 施 學 昌 研究員 |
IV 組織連想とCI戦略 | 陶山計介 研究員 |
V ストック・オプション制度と会計 | 笹倉淳史 研究員 |
VI 戦後日本の化学工業の産業組織と事業再編戦略の現状・課題 | 北島 治 研究員 |
VII 高齢社会・日本における知識創造型組織の課題 ―異者協働組織・社会の可能性を中心に― |
川村尚也 研究員 |
VIII 社会組織における知識創造 | 阿辻茂夫 研究員 |
要約
4年にわたる共同研究の成果として、『創造型適応組織の研究』を公刊した。研究対象に定めた「創造型適応組織」とは、20世紀末の日本を取り巻く政治的・経済的・技術的・社会的・文化的な激動とそれらが個別組織にもたらす一般的な混迷と環境不適応症状にもかかわらず、創造的に存続・成長し続ける営利的・非営利的な組織群 (profit/nonprofit organizations) のことである。本双書を構成する諸論文は、研究班メンバーの専門分野の多様性を色濃く反映して、多様なアプローチの仕方と対象の切り取り方を示している。編集にあたり、主幹はそれらの研究成果にあえて統一性を与えなかった。未開拓な研究領域である場合、アプローチの多様性はそれ自体尊重すべきことであるし、それとともに、研究対象としての創造型適応組織のホライゾンの広大さと深耕可能性を示唆していると考えたからである。しかし、研究班のメンバーの主体的、自己組織的な努力によって、結果的に「意図せざる」統一性が実現し、双書全体を通して創造型適応組織のイメージがかなり明瞭に浮かび上がった。
第114冊 グローバリゼーション・リスクの研究 (1999.3.31)
I 日本企業のグローバリゼーションとグローバリゼーション・リスク | 杉野幹夫 研究員 |
II インターネットによる電子商取引とリスクマネジメント ―現状,課題と展望― |
王 耀 鐘 研究員 |
III わが国における規制緩和 ―その意義,現状および展望(試算)― |
秋岡弘紀 研究員 |
IV 事例から見る東大阪中小企業の取引ネットワークの変化 | 大西正曹 研究員 |
V 1970年代アメリカの国債管理政策と国債市場 | 池島正興 研究員 |
VI アジアNIESの株価変動について | 松谷 勉 研究員 |
要約
本書は、グローバリゼーションを1990年代の国際経済関係の緊密化、グローバル・スタンダードの普及を契機とした、経済や産業における構造的変化を意味すると定義し、そこから派生する構造的な問題点またはリスクを総合的に解明することを意図したものである。
本書においてとり上げた領域は、電子商取引、規制緩和、中小企業の取引ネットワーク、アメリカの国債管理政策、アジアNIESの株価変動と、多岐にわたっている。しかしいずれも、構造的変化の内容分析と、そこから生じるリスク対策の課題、および今後の展望を推論しており、グローバリゼーション・リスクの多様性と複合性を明らかにしたものとなっている。
第113冊 ウィーン万国博の研究 (1999.3.31)
要約
ウィーン万国博覧会は、明治政府が最初に公式的に参同した博覧会で、展示品は全国の物産を調査し府県別に収集して提出させた。主として輸出貿易を目的として西欧向けに製作され、また会場で販売し、大いに国勢を世界に揚げることができた。この博覧会は、大久保利通により、そのまま内国勧業博覧会として受け継がれ、第一回(東京)〜第五回(大阪)が開催された。そのため博覧会の基礎的構築は、このウィーン万国博に築かれたので、この研究から始めることが必要で、まずこの博覧会から研究することにした。
本書では、博覧会の経過とその影響について、経済的視点から目次のように、副総裁佐野常民、田中芳男、松尾儀助の人物を取り扱い、官僚の行動力と民間人としての商業活動をとりあげ、技術移転として織物の導入過程を、仏国船ニール号の沈没による遅れによるものとして、そしてジャカード機の導入を、京都と東京の地域差として考察した。
第112冊 組織とネットワークの研究 (1999.3.31)
序章 組織とネットワークをめぐる基本概念の整理 | 片桐新自 研究員 杉野昭博 研究員 |
第I部 家族と都市のネットワーク 「集団」としての家族・「組織」としての家族・「ネットワーク」としての家族 |
大和礼子 研究員 |
異文化接触とネットワーク ―植民地都市・大連と文化の重層― |
永井良和 研究員 |
第II部 運動のネットワーク 障害者運動の組織とネットワーク ―日本における障害当事者運動の歴史と展望― |
杉野昭博 研究員 |
市民活動における全国組織の役割 ―歴史的環境保全運動を中心として― |
片桐新自 研究員 |
第III部 情報メディアのネットワーク 情報時代におけるグローバル・ニュース ―その構造と機能の考察にむけて― |
吉岡 至 研究員 |
ネットワーク社会の中の親密と疎遠 ―移動体メディア批判の社会的背景― |
富田英典 研究員 |
発信電話番号通知にみるメディア・コミュニケーションの変容 | 岡田朋之 研究員 |
付録資料:移動電話に関する街頭調査の記録(抜粋) | 岡田朋之 研究員 富田英典 研究員 |
要約
第I部では家族と都市という典型的な社会集団を事例として「組織」と「ネットワーク」概念を用いた分析が試みられる。大和論文では「家族」を性別役割分業組織として見る観点と、より広範な「個人間ネットワーク」の一部として考えるいわば「新しい家族観」とが対比され、後者の視点から夫婦関係の調査データが分析される。次の永井論文では戦前の大連市を素材として、居住区の分割などによって政治的に高度に組織化されていた「植民地都市」の歴史の中に、「開かれたネットワーク」の痕跡を探るためのいくつかの手掛かりが示される。第II部では「自発的社会集団」という広い意味での「ボランティア団体」の組織とネットワークに焦点があてられる。障害者運動を事例とした杉野論文が組織的運動の中での「開かれたネットワーク」に着目する一方、環境保全運動を考察した片桐論文は「ネットワーク型運動」の組織化が抱える問題点を指摘している。第III部は情報ネットワークに関する3つの論考から成る。いずれも情報通信技術の進歩がもたらす「現実世界」認識の変容を考察の対象にしているが、吉岡論文がグローバル・ニュースと「世界観」という情報ネットワークのマクロ問題を取り上げているのに対して、富田論文と岡田論文はともに個人間の通信コミュニケーションの変容がもたらす「自己/他者」認識問題という「世界」認識のミクロ問題を扱っている。
第111冊 大阪問題の研究 (1999.3.31)
I 関西国際空港株式会社の現状と課題 | 安部誠治 研究員 |
II 経営者リスクと危機管理カウンセリング | 亀井利明 研究員 |
III 1955年の町村合併 ―大阪・松原市の場合― | 小山仁示 研究員 |
IV 大阪の中小企業・製造業にみる海外展開と産業空洞化 ―『白書』的分析の成果と限界― |
長砂 實 研究員 |
V 築港と大阪貿易 | 羽鳥敬彦 研究員 |
VI 責任のありか ―中国人強制連行問題からの一考察― | 杉原 達 委嘱研究員 |
VII 日本企業対上海投資情況的研究報告 | 張 暉 明 中国・復旦大学教授 |
要約
現大阪問題研究班は、平成7年度に組織されたので、本年度が研究員任期の最終年度であった。
商学部4名、経済学部1名、文学部1名ならびに委嘱研究員1名(大阪大学)で構成された本研究班は、この4年間、次の2点を主たる課題として共同研究を推進してきた。
第1は、国際経済と大阪との関連、在阪企業のリスクマネジメント、大阪における産業空洞化、経済的・人的交流を支える大阪の交通基盤等の分析・研究を進めることによって、グローバリゼーション下の大阪経済の実像を解明しようとしたことである。
第2は、従来、研究史上空白であった大阪商業博物館の成立事情、ならびに戦時期大阪の分析・研究を行うことによって、研究史の空白を埋めることにあった。このなかで、とくに委嘱研究員が担当した中国人強制連行の研究は歴史研究とはいえ、すぐれて現代的意味をも有する研究であり、大阪ならびに日本の国際化の意味内容を問う研究でもあった。
本年度は先述の通り、現行研究班として最後の年度であることから、各自が自ら設定した研究テーマを完成させるために、主として個人研究を中心に研究班としての活動を進めた。研究成果としては、別掲の通り、研究員の共同執筆による研究双書第111冊『大阪問題の研究』、ならびに角山幸洋研究員による単著研究双書第113冊『ウィーン万国博の研究』を公刊した。
第110冊 ロック-スティリングフリート論争 (1999.3.31)
要約
本研究は、ウスター主教、エドワード・スティリングフリートとジョン・ロックとの間の、神は三位一体であることの確実性を焦点とした、『人間知性論』(1690) に関わる論争の内容を明らかにし、検討する。
この論争で、スティリングフリートは、『人間知性論』の「観念の方法」は三位一体などの信仰箇条を確実とせず、懐疑や無信仰を推し進めるとして、これに反対し、人間が明確、明瞭な観念を持つことができないことでも、神の啓示を基にして、理性において確実とできることがある、などの主張をした。これに対し、ロックは、信仰の根拠は、知識の根拠とは別のところ、即ち、神の啓示(新約聖書)にあり、知識を作り出す『人間知性論』の方法は、三位一体などの信仰箇条とは矛盾しない、などの主張をした。両者の主張の要点は、この論争を通して、変わってはいない。
なお、当時イングランドでは、三位一体否認は刑罰を伴う法律違反であったという事実は、この論争に大きな影を落としていた。
第109冊 価値変容と社会経済システム (1999.3.31)
I 価値意識と社会・経済システム | 橋本昭一 研究員 |
II バブルの発生・崩壊と1990年代不況 | 森岡孝二 研究員 |
III 地方自治体に対する無党派層の価値意識 ―大阪府知事に対する「府民の声」の要約と分析― |
岩田年浩 研究員 |
IV フランス社会の大転換と社会・労働政策論争 ―「苦悩の20年 (1975–1995)」における市場原理と連帯原理の二重運動― |
若森章孝 研究員 |
V 価値意識としての「国民的アイデンティティ」 | 植村邦彦 研究員 |
VI 米国のインディペンデント・コントラクター | 仲野組子 委嘱研究員 |
VII 日本人の価値優位性 | 矢島誠人 大学院委託学生 |
VIII 価値変容研究から見た現代青年の価値観 | 柏尾眞津子 大学院委託学生 |
要約
社会的価値意識が政治・経済システムにいかなる影響を与えるか、あるいは逆に社会・政治・経済のシステムの中に生まれた歪みが、既存の価値体系にどのような反作用を及ぼすかについて、体系的に取り扱った研究はないが、研究班が組織された頃から、ソ連の崩壊やそれにつづくロシアの「移行経済」や、日本の「金融ビッグバン」や「無党派知事」の続出といった事情を背景に、経済学や政治学あるいは社会学の特定の分野で重要な研究課題となりつつあった。最近ではジョージ・ソロスといった人物も「経済現象を観察するのに経済的な価値意識だけを問題にしていては不十分である」といった発言をしている。
バブル経済の発生と崩壊過程での価値意識の変容を記述したのが、第2 論文であり、研究班が横山ノック知事から得た有権者からの要望等を分析・紹介したのが、第3論文である。第4論文はフランスにおける社会・労働政策論争に現れる価値・目的・原則等に関する諸理論、思想を分析している。第5論文は「国民」意識の発生に関する個別研究である。第7、第8論文は大学院委託学生による心理学的アンケート調査の研究成果をまとめている。第6論文はアメリカで現在注目されている雇用に関する新しい動向を、雇用者福祉の観点から批判的に紹介・分析したものである。
社会的価値とはそもそもいかなる性質を持ち、どのように人間行為に影響を与えるかを論じたのが総論たる第1論文の内容である。