第106冊 証券化の進展と課題 (1997.3.31)

I 中国証券市場の特徴 松谷 勉 研究員
II 台湾の経済発展と証券市場に対する一考察
―現状,課題と今後の展望―
王 耀 鐘 研究員
III 航空機リース事業のリスク処理基盤について 羽原敬二 研究員
IV Provision for Bad Debts : Earnings Management and Information Perspective Hypothesis 須田一幸 研究員
V スタンダード石油社と南部開発会社 小谷節男 研究員

要約

金融の証券化は、金融の自由化、国際化と共に今日、世界的な潮流となっているとはいえ、その進行は各国の経済発展の如何によって異なっている。本書では、まず社会主義市場経済化を推進し、めざましい経済発展を遂げている中国と、アジアの4小竜の一つと言われるまでに成長した台湾における証券化の現状と課題について、次いで、航空機リース事業の現状と今後発展が見込まれる航空機リース債権の証券化に関する基盤条件についての問題をとりあげた。

今日、不良債権の証券化による流動化が具体化しつつあるが、会計の視点から、企業の抱える売掛債権の証券化による流動化についての問題をとりあげた。最後に、アメリカにおけるスタンダード石油社と南部開発会社の両社の成立過程における証券化の問題についてとりあげた。

第105冊 航空機ファイナンスの諸問題 (1997.3.31)

要約

航空機ファイナンスを巡る世界の情勢をみると、いろいろな面で大きな変革が予想される。まず、地域的には、今後アジア・太平洋地域の航空会社が新規に航空機購入のため多額の資金を必要とし、ファイナンスがアジア主導に転換することが挙げられる。次に、航空会社の民営化 (privatization)、政府による規制緩和 (deregulation) がさらに進行することにより、借手 (lessee) の要求するファイナンスの形態・条件が変わり、より柔軟でしかも貸手 (lessor) が多くのリスクを負担するファイナンスの仕組みを構築していかざるをえない状況にあることが指摘されている。航空機リース債権の証券化はその代表的事例である。

これまで、国営の航空会社に対しては、航空機に抵当権ないしモーゲージを設定して直接貸付をすることが多く行われてきた。この場合、貸手は航空機を担保物としてその価値を把握しているが、あくまで補完的なものであり、リスク対策上は、航空会社の信用度、すなわち当該国の信用度に依存して融資をしていた。しかし、民営化されると、貸手はリスク分析を正確に行い、同時に航空会社側も、企業損益、財務諸表の内容について配慮するようになり、長期負債、多額の固定資産が帳簿上に表示されることを回避しようとするため、簿外取引 (off-balance sheet) の要求が生じてくる。したがって、こうした借手の要求に応じるため、貸手としては、航空会社の信用ではなく、航空機自体の資産価値の評価に基づいたファイナンスに変更していかざるをえないことになる。そこで、航空機の使用年数に基づく残存価額の評価や航空機の再販売マーケットの情報収集などが重要な要因となる。この結果、貸手は、ファイナンスにあたってこれまでとは異なる新たなリスクを負担し、リスク分析およびファイナンス後のリスク管理をも適切に実施していかなければならない。

航空機ファイナンスにおけるリスクの処理上、最も重要な手段として利用されるのは、航空保険である。航空機ファイナンスに付随するリスクマネジメントにおいて、航空保険の契約条件・内容を検討することは、資金調達の仕組みを計画する金融業者にとっても主要な業務であり、航空機リース事業に関連して利用される航空保険について、全体的な体系と特約を考察し、リース取引の対象となる航空機に対して適切な保険を付するための指針を的確に認識することは関係当事者にとって不可欠な基本的要件である。

第104冊 中世イングランド宗教史 正統と異端 1066–1307 (1997.3.31)

要約

ローマ教会は、11世紀中頃から、聖職売買と聖職階層妻帯・性交、それらの温床である俗人聖職叙任の禁止を柱とする教会改革を教皇主導で推し進めると共に、聖地解放のために「十字軍」(1096) を、異端絶滅のために「アルビ十字軍」(1209) を組織し、1229年以降は、従来の司教法廷に加えて、教皇直属の異端審問官法廷を設立した。

本書は、「使徒継承者、教皇を核とする正統の教会と、神と教会の呪いを受ける異端」という視点を基に、ローマ教会の異端弾圧体制確立の歴史を記述すると共に、ローマ教皇座との協調、確執をない交ぜにしながら、世俗君主、世俗の欲求と葛藤、融和をさまざまな人々がさまざまな仕方で生きた、中世イングランド宗教社会の構造と歴史を明らかにする、その前半部 (1066–1307) である。異教徒で国王の隷従者であったユダヤ人の歴史を含み、更に、ソールズベリのジョン、トマス・アクィナスをはじめ当時の人々の思想に言及して、歴史の中での思想の働き、中世思想の基本的特質を明らかにしようとする。

第103冊 経済システムと価値意識 (1997.3.31)

I 価値意識の次元 橋本昭一 研究員
II 近代社会はなぜ排他的な共同体的アイデンティティを生み出すのか
―近代性の再把握と史的システムとしての資本主義―
若森章孝 研究員
III 戦後半世紀の日本経済と経済観の変化 岩田年浩 研究員
IV 日本的生産システムと作業長
―ある工場技術者の過労死から―
森岡孝二 研究員

要約

第1論文は、「価値意識」に関して、その定義と分類を試みたものである。価値意識を「人間の、環境に対するリスポンス」と定義する。人間をin-der-Welt-Seinと捉える発想は、決してユニークなものではないし、(人間を取り巻く)環境を、自然環境と社会環境と時間(歴史)環境の三つに分ける試みも、筆者の独創というわけではない。しかし、価値を「人間の、環境に対するリスポンス」と把握することにより、価値意識を、かなり広範囲な、人間の意識作用のほとんどすべてを含む概念に拡張するところに筆者の特徴がある。価値は人間行動の目標であり、評価基準である。それは個人によって異なるとともに、ある時代、ある社会に、個人の自由な判断や行動を制約するものともなる。法や道徳によって擁護された価値基準に抵抗するところから、新しい人間と秩序が生まれると考えることができる。

しかし他方、リスポンスの時間的反応速度や浸透速度に関連していえば、刻々と変化する価値意識(これをソフトの価値と呼ぶ)と、数十年ないし100年の期間を置いて変化が確認できる価値(ハードの価値)、100年を経過しても変わらぬ価値(ベースの価値)とがある。自然環境によって影響を受けた価値、支配的宗教教義によって形成された価値をベースの価値と呼び、さらに民族性や国民性を形成したハードの価値、経済と政治のシステムのゆるやかな変化を促し、あるいはその変化によって影響を受けるソフトの価値の3つを区分する。そのような概念を導入することによって、歴史上しばしば登場し、現在進行中とされる「転換期」の意味を探ることができるのではないかという提案が本稿の目的である。

第2の論文は、個人の自由や平等を原理とする近代社会をいち早く築きあげることにより、近代国家のシステムの模範となったフランスにおいて、なにゆえに近年外国人労働者の排斥が「文化的差異」の名の下に正当化されるようになったか、その原因を考察するものである。筆者は日本人とかフランス人といった国民的アイデンティティの形成のためには、国民 nation という共同体 community の創出が不可欠であったが、それがマジョリティのマイノリティの排除ないし特定の価値の共有を強制する排他的な集団的アイデンティティを生み出すと分析する。この問題を筆者はウォーラーステインの「史的システムとしての資本主義」というアプローチを用いて解明しようとしている。

第3論文は、戦後日本経済の成長と循環を実証的におさえた上で、その日本経済の循環を評価する立場を、二つのものに分類整理し、その内容を紹介したものである。戦後日本の経済は、在庫投資を起因とする約6年周期の短期の景気変動(循環)を描いており、これが生産・出荷の変動を通じて、物価・金利・株価の変動を生み出してきた。この規則性・習性を明らかにしたのが前半の分析であり、つづいて、景気の変動に対応した日本経済をとらえる観点や諸説の帰結を、対立する二つの立場から明らかにしたのが、後半の分析である。

第4論文は、より具体的に日本的生産システムにおける作業長の役割を論じたものである。1988年に34歳で過労死した工場技術者の労災申請資料をもとにした個別研究によって、日本的経営システムを批判するものである。従来の研究は、日本企業の生産効率と品質管理の高さの原因を、作業長を核とする現場主義的作業組織に求めてきた。それは確かに間違いない事実であるが、他方において作業長が過酷な過重労働に苛まれている事実を軽視しているというのが筆者である。それとともに、筆者は、日本的生産システムが性別分業とテイラー主義を克服していないことを確認しようとしている。

第102冊 規制と自由化 (1997.3.31)

第I章 社会的規制と消費者利益 田中茂和 研究員
第II章 規制緩和と中小企業の創業支援
―ベンチャー・ビジネス創業による日本経済活性化―
上田達三 研究員
第III章 ウルグアイ・ラウンド農業合意と日本の食料自給率問題 樫原正澄 研究員
第IV章 国際ハブ空港の機能と性格 高橋 望 研究員
IV 日本的生産システムと作業長
―ある工場技術者の過労死から―
森岡孝二 研究員
第V章 明治期における電柱建設規制の推移 丸茂弘幸 研究員
第VI章 地方分権と住民投票制度 孝忠延夫 研究員

要約

まず経済学観点からあまり注目されていないが、消費者利益と大きく関係する社会的規制をとりあげた。次いで規制緩和が中小企業に与える影響を経営学的観点から考察した。第3 に、農業面での規制緩和であるウルグアイラウンドが日本の食料自給率にいかに影響するかを分析した。第4に、航空自由化の観点から国際ハブ空港の役割を検討した。第5に、かつての我が国における電柱建設規制の推移を考察。最後に、地方分権問題を住民投票制度との関連で分析した。

第101冊 大阪問題の基礎研究 (1997.3.31)

I 交通問題分析序説 安部誠治 研究員
II リスクの形態と企業倒産 亀井利明 研究員
III 太平洋戦争末期の大阪湾岸都市
―米軍の爆撃目標としての阪神地域―
小山仁示 研究員
IV 大阪に於ける商業博物館 角山幸洋 研究員
V 「産業空洞化」問題へのアプローチ
―『経済白書』および『通商白書』の場合―
長砂 實 研究員

要約

平成7年度に新しい陣容でスタートした大阪問題研究班は、この2年間、研究員のそれぞれが分担する各研究テーマに関して基礎的な研究、資料収集などを個別に進めるとともに、適時、共同研究会を開催し、各自の分担テーマに関して研究発表を行い、研究班として討議を深めてきた。本「研究双書」は、こうした大阪問題研究班の2年間の研究成果の一部をとりまとめたものである。なお、今期研究班は4年間の存置が予定されている。したがって、本「研究双書」は、今期研究班の任期中間点における中間報告としての性格をも併せ持つものである。I、II、V章では交通問題、企業のリスク管理、産業空洞化問題に関する現状分析がなされ、II、IV章では戦時期大阪の分析、ならびに大阪の商業博物館の成立事情の解明が行われている。

第100冊 府県物産志 影印と研究 (1997.3.31)

要約

ウィーン万国博物館への展示品を各地に求めるため、明治政府は、博物局の官員を派遣して調査収集すること、または各地の出品者への提出を求めるなどをして収集したが、このうち鉱物・動物・植物・製造品に分け、府県別にまとめたものを復刻した。これらの調査にあたった官員は、京都の本草学者山本亡羊の息子たちで、博物学にたけているとのことで、官員にとりたてられたのであろう。

この写本は、復刻されることなく、うずもれていたもので、明治五年の段階での日本の産物を網羅しているものとして、ここに復刻し、それに解説を加えたものを刊行した。