ビジネスの現場で「役に立つ」価値を創造する研究を実践



矢田 勝俊

関西大学商学部 教授

リサーチスタッフとして働いたことが現在の研究のベースに

私が経営学に興味を持つようになったのは、学生ビジネスをしていたことがきっかけです。お金の数え方や簿記から勉強をはじめて、凝り性なので大学院へ進みました。データマイニングのビジネス応用については、院生の2年次のときに阪神淡路大震災で被災してから。バイト先も被災してしまったので、学費を稼ぐためにリサーチスタッフとして複数の企業に雇ってもらいましたが、会社の役に立たなくては仕事を失ってしまいます。そこで、文系の学生である自分が存在価値を示すためにできることは何かと考えると、科学的データに基づいて調査することでした。神戸には帰れなかったので会社の寮や応接室に住み込んで、疎開のような形で働かせてもらっていました。昼間は会社で仕事、夜は大学院で研究を続ける日々は、たいへんでしたけれども、その分いろいろな経験ができて、それが今も研究のベースになっています。

自らの手を動かし、ビジネスの現場に生きる研究に特化

データは、自分でプログラミングを勉強して、安いコンピューターで扱えるようにしました。自分のしていることが、コンピューターサイエンスの分野では「データマイニング」だということも知らず、たまたま知り合いの先生に教えてもらったぐらいで、当時はこの分野の研究者は日本で数えるほどしかいませんでした。その頃から、理論だけでなく、ビジネスの現場で価値を作ったり、利益を上げることに特化した研究を続けてきました。今も自分の手を動かしてプログラミングもデータもハンドリングします。社会科学の分野では、そんな「文理融合」型の人間はあまりいないと思います。私の教育プロジェクトの学生にも、「1円でも儲からなければ失敗」と言っていて、明快な線引きをしています。要は、「役に立つ」か「役に立たない」が、重要な評価指標なのです。

                        

データから新しい価値を創造するのは人間にしかできないこと

10数年前からは、通常のデータだけでなく、店舗でお客様の動きをセンサーで測定して、その動きから購入の理由や、購入の仕方を解明する研究にも取り組んでいます。ネットショッピングでは、すでに当たり前になっていることですが、実店舗での購買行動についてのブラックボックスがどんどん明らかになっていくと、広告やマーケティングの分野でもいろいろな応用ができます。たとえば、今はチェーン店でどの店も同じ品揃えになっているものが、その地域性や顧客に合わせた品揃えができるようになって無駄がなくなることで、社会的コストも下がります。 現在は、人間の行動をモデル化してベースを作っているところですが、それを基にして新しい価値を創造するのは人間にしかできないこと。AI(人工知能)にはできないことで、人間のクリエイティビティはもっとクローズアップされて、その価値も高まっていくことでしょう。その価値の創造の部分を企業と一緒に進め、また教育の中でも実践していきたいと考えています。

プロフィール

1997年、神戸商科大学大学院経営学研究科博士後期課程修了後、大阪産業大学経営学部を経て、2000年、関西大学商学部に着任。コロンビア大学ビジネススクール客員研究員を歴任、現在に至る。大学院時代から複数の企業内で情報化の現場経験を積み、大規模データの戦略的利用、データマイニン グのビジネス応用に関して研究。日本人として初めてKDD&DM(国際ジャーナル)に採択されるなど、日本のデータマイニングのビジネス応用研究において、先導的な役割を担う。現在、データサイエンス研究センターのセンター長を主宰するほか、DSIプログラム統括責任者、大阪大学の招へい教授、国際会議の議長、PCなどを務める。