日本とブラジルの文化を共存・調和させた「日系社員」
長谷川 伸 准教授

日伯合弁製鉄所の「技術移転」成功の鍵を探る

日本とブラジルの文化を共存・調和させた「日系社員」

日本とブラジルのポンチ(懸け橋)となった人々

商学部

長谷川 伸 准教授

Shin Hasegawa

長谷川准教授の研究論文の数々

世界で最も多く日系人が居住する国・ブラジル。日本とブラジルの経済的、文化的なつながりは、現在に至るまで極めて緊密である。本学でラテンアメリカ経済を研究する長谷川伸准教授は、ブラジル鉄鋼業界への技術移転、特にブラジルに渡った日本人移民とその子孫が日本からの技術移転でどのような役割を担ったかをテーマに、多くの日系人から聞き取り調査を行い、研究を進めている。

途上国の鉄鋼業の発展と技術移転を追う

1950~60年代の日本からブラジルへの鉄鋼生産技術の移転に着目されていますね。

1958年に日伯合弁で設立し、1962年に操業を開始したミナスジェライス製鉄所(ウジミナス)は日本からの技術移転の成功例となり、国際技術協力のシンボルとなった企業でした。
 私は、ウジミナスでの技術移転がなぜ成功したのかに興味を持ちました。日本とブラジルの間には言葉の壁があり、互いに相手の言語に通じているわけもなく、かつ、英語でのやりとりが可能なのはエンジニアなどのごく一部に限られていました。文化の壁も厚く、労働観や人生観なども大きく異なっていました。こうした壁をウジミナスがいかに乗り越えて成功したのか。その秘密を解く鍵が、操業開始期に400~500人規模で大量に採用された日本人移民(一世)、二世の存在とその役割にあるのではないか、と考えたのです。

ウジミナス操業開始記念の灰皿を手に。溶鉱炉の火入れの際にできた銑鉄でできている

ウジミナス操業開始記念の灰皿を手に。溶鉱炉の火入れの際にできた銑鉄でできている

研究を通じて記憶を次世代につなぐ

どうやって研究を進めたのですか?

ウジミナスの社史や関係者の回顧録では、日系社員は通訳者・翻訳者、指導の仲介役、現場でのモデルといった役割を果たしたとされているものの、役割をどのように果たしたのかは明らかではありませんでした。
 ウジミナスはなぜ日系移民を必要としたのか。なぜ日系移民やその子孫が大量に入社したのか。入社した彼らはどのような役割を果たし、どのような苦労があったのか。私は、こうしたことが語られることなく、記録されることなくブラジルの大地に埋もれていくことが看過できませんでした。

そこで、当時ウジミナスで働いていた元日系社員に聞き取りをするようになったのですね。

そうです。1950年末~60年初めに入社した人たちは、現在80~90歳代です。中にはすでに亡くなった方やお話が難しい方もいらっしゃいます。時間との勝負ですので、可能な限り聞き取りを進めたいと思っています。

聞き取り調査を通じて、どんなことが明らかになりましたか?

日系社員は、通訳としての待遇も教育も受けることなく通訳をせざるを得ませんでした。にもかかわらず、日系社員は日本とブラジルの文化の間に立ち、両者を共存・調和させる「文化の仲介者」としての役割を果たしたことがわかりました。元日系社員の方が言っていた「ウジミナスでポンチ(懸け橋)の役割を果たした」内容が明らかにできつつあります。現在は、技術指導の仲介、現場でのモデルの内容を明らかにすべく研究を進めています。
 異なる文化の間に立ち、困難な状況の中でとりくんだ人々について考えることは、「人から人への技術移転」にとって本質的な部分です。戦前、日本からアメリカ合衆国や南米、「満州」などへの移民の多くは地方出身者であり、当時の国家の移民政策によって海を渡りました。グローバル化が急速に進む現代の日本に暮らす私たちにとっても、学ぶことは多いはずです。

未来は学生・子どもたちのもの

その他にとりくんでいることはありますか?

地球規模の持続可能な開発目標「SDGs」への理解を深めるために、「2030 SDGsカードゲーム」を活用した授業をしています。このゲームは、自分の人生の目標と持続可能な社会をつくることを共に達成するには何が必要かを理解できるようになっています。学生たちが「自分が少しぐらい何かしても、世界は変わらない」ではなく、「自分が少し動くと、世界も少し変わる」と感じてほしいですね。
 また、関大生と海外の大学の学生とがチームを組み、社会的課題の解決にとりくむ「国際ジョイントPBLプログラム」eJIPでは、メキシコ、ベトナムの学生たちと陸前高田市に行き、地元の人が気づいていない地域の魅力を発見する活動を行なっています。また「幸せの国」ブータンにおいても同様の「ブータンにおける持続的コミュニティ創生国際共修プログラム」MSBI@BTを行なっています。学生たちが自分とは大きく異なる相手と一緒に、価値ある仕事をすることは、彼らにとって成長の機会になりますし、これからますます社会に求められることになるでしょう。

学生たちへ伝えたいことは?

私は、学生たちには「ありのままでいいんだよ」とよく言います。でも、彼らは「ありのまま」でいることは難しいと感じていますね。自分の目ではなく他人からの目で自分を見てしまっているからでしょう。もっと自分の五感、感情を信じて大切にしてほしい。そういう私自身も「ありのまま」でいることを練習中ですが、学生が私の姿を見て「楽しそうだな。自分の好きなことをやってみようかな」と感じてくれたらうれしいなあ。

  • 「2030 SDGsカードゲーム」を活用した授業

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  • 「2030 SDGsカードゲーム」で学ぶ

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  • 「国際ジョイントPBLプログラム」eJIP

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  • ベトナム、陸前高田市で地域と異文化を学ぶ

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