多文化共生社会に向けた国際的な教育を
池田 佳子 教授

留学生支援と国際連携学習を研究

多文化共生社会に向けた国際的な教育を

日本人学生、外国人留学生、国内外の企業をつなぐ

国際部

池田 佳子 教授

Keiko Ikeda

グローバル化が進む中、世界各地で優秀な人材の獲得競争が起こり、日本でも国際的に通用する教育の展開とより多くの優秀な外国人留学生の受け入れが急務とされている。国際部・グローバル教育イノベーション推進機構(IIGE)副機構長の池田佳子教授は、留学生教育カリキュラムの構築やオンライン型国際連携学習(COIL)の導入に力を注ぐ。

キャリアアップを目指す留学生を支援する

留学生支援教育に取り組まれたきっかけは?

もともと私の専門は日本語教育で、その対象は日本語以外を母語とする人です。日本国内で外国人学生を教えていると、彼らにとって日本語や日本文化を学ぶことは1つのステップに過ぎず、目的は進学や就職という人生のキャリアアップであることが見えてきました。それなら言語に特化せず、留学生教育という大きなカテゴリで捉えていこう。そう考えるようになりました。

日本では「留学生30万人計画」が打ち出されています。受入れの状況はいかがでしょう?

2018年5月の時点で留学生数は29万人を超え、30万人計画達成まであと一歩というところです。しかし、高等教育だけに特化するとここ5年位は横ばいで減少の気配すら感じます。これは、日本語学校や専門学校へ入学し、留学ビザを得て就労するためにやってくる外国人が多いためです。人口減少と少子高齢化が進む日本には単純労働の需要があり、うまくニーズが合っているのです。そうした中、大学の役割は進学してキャリアを積みたい留学生をしっかりと教育し、優秀な人材を輩出していくことが大事です。そして、大学のことだけを考えるのではなく、日本経済を単純労働で支える外国人層を受け入れるための支援として、民間企業や日本語学校とも連携し、必要なリソースを共有・享受して、共に一助を担っていく必要があると思います。

留学生教育の大きな柱となる文部科学省委託事業・留学生就職促進プログラム「SUCCESS-Osaka」の取り組みについて教えてください。

SUCCESS-Osakaの目的は大きく分けて2つあり、その1つは大学を基盤とする教育・研修カリキュラムの構築です。注力しているのは、留学生と企業の交流機会を増やすこと。多くの企業は、留学生の日本語レベルを観光客と同等程度に思っています。一方で留学生は、残業や旧来の企業慣習等、日本企業のマイナス面を不安視しています。実際に会うことでお互いの先入観は払拭され、回を重ねることで留学生は自分の意見をしっかり言えるところまで成長します。具体的には「SUCCESS Cafe」「業界理解講座」「インターンシップフェア」等、月に数回は必ず何か開催しており、合計すると1000時間以上に及ぶため、座学よりもはるかに実りがあると言えるでしょう。
 もう1つは、国内外の企業支援や内定・就職後の人材支援です。今はちょうど企業が外国人を雇用したばかり。今後、彼らをどのように育成していくか戸惑っている状態です。そこで企業支援の勉強会を開催し、各企業の中にメンターを養成する取り組みを始めました。毎月数時間、約20社の担当者が外国人就労について学び、留学生と交流します。その後はサポーター企業として、授業とのコラボレーションやインターンシップの開発、就職マッチング、セミナー等、さまざまなことを共有していくという流れです。

スタートから3年目を迎え、就職者数に変化は見られますか?

ありがたいことに学生にも浸透し、企業からの信頼度も上がって内定につながりやすくなりました。SUCCESSフルタイムフェローの内定率は7割以上(学部・院)、関西大学の留学生の就職率は約6割(学部生)と向上しています。SUCCESS-Osakaの4大学全体では約4割。これは、就職よりも進学希望者が多い大学もあるためです。

逆に、日本から海外へ留学する学生も増えているのでしょうか?

留学生数は上がっていますが、4~8週間の短期留学の増加が顕著です。費用の問題もあると思いますが、国内の雇用状況が良いことが影響しています。就職活動で留学経験をアピールする必要がなく、国際感覚を養う目的で行くのなら2カ月程でいいわけです。
 実は、私がCOIL型教育を始めた理由はそこにあります。例えば、2カ月間の留学だと、慣れるのに2週間、大して学ばないままに1カ月が過ぎ、友達ができた頃には帰国。COILを導入すれば、留学前にバーチャルで交流しながら学習を開始し、中身の濃い学びを得て、帰国後も交流を続けることが可能なのです。短期間でも、深く総合的な学びを引き出せるようサポートしたいと考えました。

  • 文部科学省委託事業・留学生就職促進プログラム「SUCCESS-Osaka」

    文部科学省委託事業・留学生就職促進プログラム「SUCCESS-Osaka」

  • 海外の学生と共にオンラインで学ぶ「COIL」を活用した授業の様子

    海外の学生と共にオンラインで学ぶ「COIL」を活用した授業の様子

バーチャルな連携で、国境を越えた教育を

関西大学は2014年にCOIL型教育を導入し、今や全国の大学のプラットフォームとなっています。

当時、私はe-ポートフォリオ導入に着手しており、その実践に関する講演をさせていただいたシンポジウムで、偶然にもCOILプログラムを開発したニューヨーク州立大学COILセンターの所長(当時)と同席しました。面白そうなので話を伺い、すぐに自分の授業へ導入してみたところ、学生からの評判がとても良かったのです。そこで、本学の国際教育の柱の一つとして打ち出したのが始まりです。ネットワークは少しずつ開拓し、現在11カ国、計21の海外大学にまで広がりました。

その実績を基盤にしたのが、平成30年度大学の世界展開力強化事業「グローバル・キャリアマインドを培うCOIL Plusプログラム」ですね。KU-COILからどのように進化したのでしょう?

関西大学の該当事業では2つの役割を担っています。1つは、フラッグシップ大学としてCOILを推進すること。例えば、今年度の新科目では、ニューヨークの大学と共同学習しており、8月に学生は現地へ留学します。COIL科目と留学を連動させ、学生が海外での就職も視野に入れられるようにしました。この連動したプログラムをCOIL Plusと呼んでいます。
 もう1つは、採択された10大学を取り持つプラットフォームになること。これはIIGE(グローバル教育イノベーション推進機構)として進めています。5年間で各大学のCOIL実践の活動情報をデータ化、分析し、新規参入をする大学もCOILを導入できるよう、また、海外の大学にも展開できるようリソースを構築。併せて、日本のCOIL協議会に参加している約20大学の支援もします。3月にはCOIL科目のマッチング&実践プラットフォームである「Immerse U」も開設し、順調に展開を進めています。

COILの普及により大学の未来はどのように変わる?

COILは海外の大学と関西大学の授業が出合う場所。カリキュラムが増えれば、関西大学だけでは提供できないプログラムを開拓、構築できます。国境を越えた教育を提供することで大学の魅力もアップするでしょう。教員間もコラボレーションにより国際化が進み、さまざまな意味でのステップアップを狙うことができます。日本の受け入れ制度はまだ整っていませんが、周りの国々は既に実施しています。私たちも世界での人材争奪戦に負けないよう、変化していかねばなりません。幸い導入に前向きな教員が多いので、期待したいですね。

平成30 年度大学の世界展開力強化事業「グローバル・キャリアマインドを培うCOIL Plus プログラム」

平成30 年度大学の世界展開力強化事業
「グローバル・キャリアマインドを培うCOIL Plus プログラム」

多文化共生社会の実現に向けて

人間とコンピュータの相互作用(HCI)の研究等、幅広い分野での活躍に驚かされます。

HCIの研究は文理融合型です。例えば、共同プロジェクトチームが開発した肩乗せロボットは「テルーズ」と言って、スカイプで遠隔操作ができ、自分の目や耳、口の代わりを務めてくれるというものです。プログラミング等は工学系のチームが行い、私は人間同士のコミュニケーションを分析し反映する社会性の分野を担当しました。私の研究の中心にあるのは「人との交流」そして「それを促進する実践手法の開発」です。そういう意味では、SUCCESSOsakaやCOILとも、やっていることはそう変わらないのです。

今後の展望をお聞かせください。

テーマは「多文化共生」です。今後、日本は多様な背景を持つ人たちが一堂に集まる機会が増えます。人手が不足し、ロボットが介助や通訳をすることになる時代がきます。また越境して人々が集まる場所で、多文化対応できるコミュニケーション能力とはどういうものなのか。多文化共生は留学生支援にも国際教育にもHCI開発にもつながります。論じて終わるのではなく、実現に向けて注力します。