地下空間における水災害のメカニズムを分析
石垣 泰輔 教授

都市環境と水災害の研究

地下空間における水災害のメカニズムを分析

防災教育として地下浸水の危険性を発信く

環境都市工学部

石垣 泰輔 教授

Taisuke Ishigaki

地球温暖化などの影響で、ゲリラ豪雨や台風がもたらす水災害。日本の都市は、かつてない水害の危機にあると言われている。都市は土地を確保するために、川や水路を埋め立てて下水道を整備した。地下街や地下駐車場、地下鉄など街は発展したが、水災害時、最も深刻な被害が予想されるのがこれら地下空間と言われている。地下への浸水は食い止められるのか、水災害から命を守るにはどうすればよいのだろうか。石垣泰輔教授はそのメカニズムを分析し、危険性や対策を発信する。

身近な水災害の危険性を知る

石垣先生の研究室ではどのような研究をされているのですか?

豪雨や洪水といった自然現象による災害を、水災害と呼んでいます。具体的には、集中豪雨時にマンホールや排水路から溢れ出して起こる内水氾濫(雨水出水)、川から水が溢れる外水氾濫、津波、高潮です。そういった水災害から都市を、人の命をどのように守るかといった防災面から、地下空間における水の流れを研究しています。

地下空間における浸水について教えてください。

日本には640以上の地下駅、約80の地下街、多数の地下駐車場、アンダーパス、地下室など、多くの地下空間があり、これまでにも地下浸水による被害を数多くもたらしてきました。例えば、宅地や道路に降った雨は、道路の側溝から下水管を通り直接川に入るか、排水機場から川へポンプ排水されます。これらの雨水排水施設は、1時間に40~50㎜程度の雨が排水されるように設計されていますが、最近はこれを上回る雨が全国各地で発生し、道路が冠水するケースが増えています。近年、地下空間の水災害への対策強化と防災意識の向上が注目されています。

大都市の地下空間は規模も大きいですね。

東京、名古屋、大阪など大都市の地下空間は、水が溜まりやすいゼロ地帯に広がっており、一度浸水するとポンプで汲み上げるしかない状態です。1時間に100㎜を超えるゲリラ豪雨が発生すると、下水管がいっぱいになり、マンホール等から溢れ出た水は道路上を流れ、階段やエスカレーターを通して地下浸水が発生するのです。

地下浸水の怖さは想像を絶しますね。

地下1階は地下街、地下2階は駐車場、地下3階は地下鉄のホームといった地下3層構造が都市でよく見られます。ここが浸水した場合、水は低い方へと進みますから、地下3階の地下鉄のホームへと流れ込みます。地下鉄の線路とホームの間には転落防止用の壁や扉があり、水が溜まりやすい構造です。大量の水は隣の駅を襲い、電車を乗り換えるように、他の路線へとどんどん広がっていくのです。

具体的な解析や実験について教えてください。

実際の街をモデルに30分の1の模型を作り、実験を行いました。想定は一日300㎜の大雨。近くの河川から溢れた大量の水が流れ込みます。水は改札を通って階段から流れ落ち、地下3階のホームに溜まっていきます。最初、水位の変化はごくわずかでしたが、突然、水位が一気に上がります。およそ15分後には2m50㎝に。原因は地上の入り口がいくつもあるからです。
 こうした実験の他、浸水の仕組みやパターン、地下の構造、地下空間への人の流入量や動きをデータ化し、浸水に対する脆弱性や避難困難度を解析しています。


  • 実物大ドア模型を用いた浸水時地下室からの避難体験実験

命に関わる水の力と動き

水災害現象観察用ジオラマ模型で水災害の怖さを発信。

浸水は浅くても流れがあるので、思っているより大きな力が働きます。水災害現象観察用ジオラマ模型を用いて、小学3、4年生を対象に防災教育を実施しています。観察や体験を通して、水害のメカニズムを学べる場をつくり、防災意識を高めるのが狙いです。そして、子供の話から、家族内の水災害に対する関心が広がればと考えています。

水災害の避難時の危険性について教えてください。

水による力は水深で決まる「水圧」と、流速と水深に関係する「流体力」があります。水深が2倍になると水圧は4倍になり、流速が2倍になると流体力は4倍になります。このことは、水深や流速の少しの変化でも、働く力が大きく変わることを示しています。
 特にビルの地下室は消防法の関係でドアが外開きになっています。そこに浸水し始めると、30㎝くらいで外からの水圧によりドアは開きません。年齢や性別の差もありますが、特に女性や高齢者は水の流れで足元をすくわれて流される危険性があることや開扉可能な水深を認識しておいた方がいいですね。

都市環境における水災害の研究を始めたきっかけは?

もともとは京都大学防災研究所で複断面開水路における洪水流の構造、水理構造物まわりの流れと河床形状、水災害の発生機構、水害時の住民避難行動などの研究に取り組んでいました。2005年に関西大学に来てからも、大阪、京都、名古屋、ベトナム、イギリス、アメリカで災害調査をしましたが、川の流れや水害についてどんなに研究しても、それを伝えなければ人の命が助からないと防災教育の必要性を痛感しました。

水災害現象観察用ジオラマ模型

安全と言うのは保証されていないと考えるべき

地下に水が浸入してきた場合、どうすればよいのでしょう?

雨水は短時間で集まって道路上を速く流れ、まわりより低い場所に溜まります。特に、地下にいると地上のことが分かりません。大雨注意報が出された時には、自分がどこにいるかということを自覚しておくことが備えになり、自分を守ることになります。

最後に、今後の抱負をお聞かせください。

都市化が進み地下街が成長すると構造的により複雑になり、いろいろなところからの浸水が考えられます。大阪梅田の地下なら少なくても1万人、ラッシュ時なら5万人以上の人をどこに避難させることができるのか。どうすれば多くの命を守ることができるのか。
 これからは水害だけでなく、都市計画としての防災を考えなければなりません。私たちの防災研究が社会に役立つよう、地下街の管理者や鉄道事業者、自治体などと連携しながら更なる調査と研究を進めていきたいと考えます。