ユーザの立場から使いやすい情報デザインを探求
堀 雅洋 教授

ユーザ中心デザインの研究

ユーザの立場から使いやすい情報デザインを探求

地域の情報発信にユーザ目線の発想を生かす

総合情報学部

堀 雅洋 教授

Masahiro Hori

スマホのアプリを利用しようとして、操作にストレスを感じて、途中であきらめてしまったことはないだろうか? どんなに優れた機能も、実際に使われなければ役に立たない。堀雅洋教授はウェブコンテンツやソフトウエア、情報端末などの使いやすさ・わかりやすさを実現する技術や方法論について、人間の情報処理特性を考慮しながら研究してきた。ユーザ目線の発想を地域の情報発信に生かし、地域連携活動にも積極的に取り組んでいる。

ユーザ目線で価値を伝える情報デザイン探究

堀先生の研究室では、堺市や高槻市など、地域と連携した取り組みが活発ですね。

堺市との連携は、市の魅力をわかりやすく発信する「堺市シティプロモーション情報サイト」の制作に協力したことをきっかけに2012年ごろから始まりました。昨年公開された、堺市内の周遊コースや見どころを検索する地図アプリ「堺ガイドマップ」や堺市立町家歴史館 山口家住宅の魅力を紹介する特設サイト「堺町家物語」の制作も研究室の学生が中心となって、現地調査から、イラスト作成、ナレーション収録、映像編集まで行いました。
 高槻市との取り組みは、情報通信技術を活用して高槻市の安心・安全について考える研究会を2010年から2年間にわたって開催したことから始まりました。その活動の一環として、災害時の危険箇所や避難所の情報をグーグルマップ上に表示させるハザードマップアプリを開発しました。それ以来、高槻市の防災訓練には総合情報学部の他の研究室とともに何度も参加しています。昨年は、タブレット端末を用いたクイズアプリと複数人で楽しむ防災カルタを体験してもらうブースを出展し、子どもからお年寄りまで幅広い年代の方々に避難時の心得について興味をもって学んでもらえるようにしました。
 最近は、大阪市の公式ウェブサイトの使いやすさの評価にも協力しています。サイト閲覧中のユーザの操作や発話を分析・検討した結果として、情報探索の初期段階で過剰な選択肢が提示されないようにするデザイン方針を提案しました。

どの活動でも、「わかりやすさ」「使いやすさ」「快適さ」を大切にしているのですね。

豊富なコンテンツを備えたウェブサイトなのに必要な情報になかなかたどり着けない、最新機能を備えたスマートフォンなのに使い方がわからないといったことはありませんか? 一見複雑な機能でも、スムーズに操作できれば快適に利用することができます。私の研究室では、コンテンツや機能としてユーザに提供される情報を体系化し、わかりやすくデザインするとともに、その使いやすさを評価する研究に取り組んでいます。
 キーワードとなる「ユーザ中心デザイン」とは、作り手ではなくユーザ目線に立ち、使いにくさやわかりにくさを解消しながら、より快適で理解しやすいものをデザインすることです。工夫のポイントは、見た目を整えることよりも、ユーザに情報の内容を的確に伝えることによって、その価値を理解してもらうことだと言えます。

学校教育現場で利用される多言語情報検索サイトを実用化

先生が開発にかかわり、現在は文部科学省によって運営されている帰国・外国人児童生徒教育のための情報検索サイト「かすたねっと」においても、ユーザの立場からの使いやすさを意識されたのですか?

外国にルーツをもつ子どもたちを受け入れている小中学校では、それぞれの国の言葉で書かれた学校行事や健康診断などのお知らせ文書、日本語指導のための教材が必要とされています。このような多言語文書や教材は各地で作成され、教育委員会や国際交流協会のウェブサイトでも公開されていますが、普通の検索エンジンでは簡単に探し出すことができません。「かすたねっと」では、これらの文書・教材のもつさまざまな特徴を多面的にとらえた分類体系を構築し、検索の手がかりとなるキーワード候補をその都度ユーザに示す機能を実現することによって、多言語文書・教材を全国のサイトから横断的に探し出せるようにしました。
 2011年の公開以来、利用者は年々増加し、全国から毎年約10万件のアクセスがあります。検索機能の開発では、実際に多言語の文書・教材を利用している教育関係者の方々約100人に公開前の検索ツールを利用してもらい、使いやすさについて評価実験と改良を繰り返したことが、利用率の高さにつながっていると思います。

このような発想が役立つ分野は、他にもありそうですね。

人間は正しい行動を知識として理解していても、その通り行動できないことがよくあります。例えば、思わぬ事故につながりかねないことは簡単に理解できるはずですが、人混みの中で歩きスマホをしている人をよく見かけます。このような知識と行動の不一致は、情報モラルだけでなく、災害時の避難行動や自然環境への配慮など、さまざまな場面で起こります。そこで、知識と行動意図の食い違いをデータで示せるようにする評価手法を提案し、適切な行動意図の形成を促すことができる学習支援システムについての研究も進めています。


かすたねっと
http://www.casta-net.jp/

ユーザ中心デザインでイノベーションを

地域連携の取り組みは、さらに発展させていくのですか?

自治体からの相談はよくいただきますし、これまでの経験を生かして少しでもお手伝いができればと思っています。堺市との取り組みでは、昨年に続き、3月5日~6日に堺市と関西大学の連携事業として、国の重要文化財に指定されている江戸時代の町家(山口家住宅)でAMD展(アート×メディア×デザイン展)を開催します。今年は「情景にふれあうメディア空間」をテーマに、総合情報学部の5つの研究室と特別協力アーティストによる作品が展示されます。

今年のAMD展は堺の情景がテーマなのですか?

堺市ほか関連自治体では、百舌鳥(もず)・古市古墳群の世界文化遺産登録に向けた準備が進められています。千年の時を超えて今に残る壮大な文化遺産の一端を、映像表現によって身近に感じてもらえれば、世界遺産登録に向けて一層機運が高まると思います。そこで昨年12月、全方位カメラを搭載した無人航空機(ドローン)で、大仙公園上空から周辺の古墳や市内の眺望を撮影しました。AMD展ではこの空撮映像を編集した作品や、古墳周辺を散策する際にスマホでも利用できるマップアプリなどが展示・公開されます。歴史的建造物に融和する情報メディア空間で、堺の情景を体感していただければと思います。

最後に今後の抱負をお願いします。

情報技術によって解決される実社会の多くの課題には、人間が利用者、消費者、制作者、生産者などさまざまな立場でかかわってきます。同じ情報であっても、前提とする状況をどのように組み合わせるかによって、その意味合いはさまざまに変化しますが、情報技術と人のかかわるところに私は面白さを感じます。地域や場所とのつながりを見据えながら情報を多面的にとらえ、それらをユーザ視点で相互に関連付けて新たな価値を創出する情報デザインに取り組むことで、社会にイノベーションを起こすことを目指していきたいと考えています。


  • オーストリアのリンツで開催された芸術・先端技術・文化の祭典「アルス・エレクトロニカ」における出展作品のプレゼン


  • 仁徳天皇陵空撮映像「体感空撮映像 ~空から見る仁徳天皇陵~」