新しいコミュニケーション表現システム
米澤 朋子 准教授

コミュニケーションメディアの研究

新しいコミュニケーション表現システム

寄り添ってサポートする安心ロボット

総合情報学部

米澤 朋子 准教授

Tomoko Yonezawa

ぬいぐるみ、沖縄の楽器・三線、分解しかけの電子製品、ハンダ付け用の工具。高槻キャンパスにある米澤朋子准教授の研究室は、自由な発想を反映するかのように雑多な物で溢れている。米澤准教授は独創的なアイデアで、音、映像、ロボットなどを用いて、豊かなコミュニケーションの形を創り出そうとしている。

腕に可愛いロボットを連れて出かけよう

可愛いぬいぐるみのロボットがありますね。

これは最近の研究の一つで、腕に抱き付く形の寄り添い型ウェアラブルロボットです。振動モーターや圧力アクチュエータを中に入れてあり、装着している人の腕を叩いたり、きゅっと抱き付くなど、ぬいぐるみからのスキンシップ表現を通じて、さまざまなメッセージの伝達ができるようにしています。撫でると反応するといったロボットはこれまでにも数多くあるのですが、スキンシップを自分からしてくるものはなかったと思います。

どのような場面でこのロボットを使うのですか?

昨今、高齢化や核家族化の影響で、一人暮らしの高齢者が増加しています。この中には、要介助の高齢者や、一人での外出に不安のある高齢者もいるでしょう。例えば、外出時の高齢者に「トイレに行く時間です」と知らせるのに、大きな音声で伝えたら恥ずかしいでしょうし、携帯電話にメールを送ってバイブレータで分かるようにしても、取り出して確認するのが煩わしいですよね。しかし、このロボットとのスキンシップを通じて優しく伝えれば、あたかも介助者がそばにいるようなサポートを感じられて心強いし便利でしょう。
 周囲の危険に気が付かない場合でも、腕を強く握られたらドキッとして反応しますよね。視覚情報よりも触覚情報の方が注意誘導力の高い場合があり、直感的に伝える手段としてスキンシップを利用することは効果的だと考えています。

外見はぬいぐるみでなくても良いのでは?

ある情報を伝える際に、ロボットが擬人化されていると、分かりにくい情報でも相手に受け入れられやすいということが、これまでの研究で明らかになっています。ですから、少なくとも頭部と顔があり、手が動くぐらいはできるロボットを作らないといけないと考えています。
 情報をいかに分かりやすく伝えるか、そのためのさまざまな表現方法を考えることが私の研究で、身の回りにある不自由やコミュニケーションの不具合などの問題に着目し、解決につながる新しいコミュニケーション表現システムの創造を目指しています。ロボットも、よりスムーズにコミュニケーションをとるための一つのメディア(媒体)としてとらえています。


  • 三線弾き語り。琉球民謡の譜面インタフェースも研究


  • ハンダ付けは好きな作業


  • 可愛いぬいぐるみの外見をした寄り添い型ウェアラブルロボット。


  • 内部に入れられた振動モーター、圧力アクチュエータによって装着者へスキンシップ表現をする

コミュニケーションを豊かにする、さまざまなインタラクティブシステム

他にも新しいコミュニケーションのメディアやシステムを研究してこられたのですね。

例えば、ロボットの眼球の移動と頭部の動きで人の視線を誘導するという研究を以前していたのですが、そういった視線のやりとりを、今度はディスプレイに表示される3DCGの仮想エージェントで行って、実空間の存在ではない擬人化エージェントとユーザーがもっとコミュニケーションできるようにする実験を学生と進めています。
 また、音が並行的に聞こえる音響空間では、どのようなコミュニケーションができるかという研究を文部科学省の科学研究費助成事業若手研究Aに採択されて行っています。この研究では、例えば、多くの学生を相手に話す授業で、理解できていない学生がいれば、そのことを知らせる音が教員に通知され、教員は話を続けながら、超指向性スピーカーを仕込んだロボットを使って、理解できていない学生だけに向かって補足する情報を音声で送るといったことを考えています。
 音の表現に関する研究は以前からしていて、大学院修了後に就職した日本電信電話株式会社(NTT)のサイバースペース研究所では、音声合成の研究開発に従事して、最低限これだけの声を採取すれば、その人の声を合成できるというシステムを作ったり、怒ったり、笑ったり、ささやいたり、人工の歌声に表情を付ける研究をしました。
 また、ホワイトボードにメモを貼り付けるように、音声と自分の頭が向いている方向の情報だけで、音声メモの付箋を周囲の仮想空間に貼り付けて保存したり、聞くことができるシステムも開発しました。この研究で、2008年に独立行政法人情報処理推進機構の未踏事業でスーパークリエイタに選ばれました。
 他にも、人と同じように発声する際に息遣いをするぬいぐるみロボットや、生命の有限性(寿命)と遺伝を持ったペットロボットの研究もしています。

擬人化を体系化する理論にも取り組みたい

ユニークな研究ばかりですね。その発想はどこからくるのでしょうか?

高校生の時に、「アクアゾーン」という観賞魚飼育シミュレーションソフトに出合い、人工的な生き物に対して思い入れができることに感動して、こういうものを作る人になりたいと思ったのが現在の研究の原点になっていると思います。
 一見、乖離している物事の間でも、「これとこれはつながっている」とか「こうすれば、こういう新しいものになる」といつもアイデアを探していて、その思い付きをすぐに口にしたりするので、人から私は「話が飛ぶ」とよく言われます。周りの研究者や学生には「ときどきおかしな思い付きを研究に持ち込むから、私の言うことは受け流したりして、しばらく様子を見た方がいい」と伝えています。
 どうしてそのような発想が出てくるかと言えば、何か起こるたびに些細なことでも「なぜ?何?」と子供のように考えているからかもしれません。

研究は楽しいですか?

思い付いたことを形にする便利なツールが、今はたくさんあります。しかし、いくら便利になったといっても、すぐ形にできるわけではありません。どうやったら実現できるのかを懸命に考え、実現した後でこうやればもっとよかったと分析する、その手間と苦心は大変ですが楽しい。研究の中には、そういった楽しみがすべて詰まっています。また、最近は擬人化の技術や現象を体系化する理論を考えることも楽しくなってきました。やっと私も少しは、学術的なことも考えられるようになったかなと思ったりしています。

今後の抱負をお聞かせください。

世の中の役に立ち、長く使われる物を作りたい。そんな視点もあったのかと驚かれるような、誰も考えていなかったことを提案し続けていきたい。さまざまなプロジェクトでの交流を通じて、世の中には面白い人がたくさんいるんだと感じています。これからも面白い人が集まる中で、物づくりができればと思っています。学生と私では世代的な背景が違うので、メール一つをとっても異なる感性を持っていることが面白く刺激になります。コミュニケーションの形が違う人が研究の世界にどんどん入ってきて、一緒に研究できることをとても楽しみにしています。