農工商が連携する新しい六次産業を創出
片倉 啓雄 教授

バイオマスの有効利用の研究

農工商が連携する新しい六次産業を創出

地域資源を利用したバイオリファイナリーの基盤形成

化学生命工学部 生命・生物工学科

片倉 啓雄 教授

Yoshio Katakura

文部科学省が重点的かつ総合的に補助を行う平成25年度「私立大学戦略的研究基盤形成支援事業」に、化学生命工学部の片倉啓雄教授が代表を務めるプロジェクトが採択された。地域の一次産業を活性化、バイオマスの有効利用のモデルとなる研究基盤をつくるプロジェクトだ。

文理融合、産官学連携の研究体制を構築

「私立大学戦略的研究基盤形成支援事業」に採択されたプロジェクトはどのようなものですか?

「地域資源の高度利用を図るバイオリファイナリーの基盤形成とその実用化」というタイトルで、まず、地域で生産される農産物資源から、付加価値の高い成分を探索・抽出・精製し、商品化します。さらに、その残渣からバイオ燃料や炭などを生産し、バイオマスの有効利用を図ります。地域密着型で原料を余すことなく活用するバイオリファイナリーの研究基盤を確立しようとするプロジェクトです。

具体的には、どのような取り組みをされるのですか?

まず、規格外品や傷があり流通に乗らない農産物や加工時の廃棄物などを集めて、いろいろな成分を抽出します。抽出した成分は、企業や大学の研究者が自由に使える試料として広く提供する仕組みを作ります。付加価値の高い成分が見つかり、その用途が開発されれば、生産者は自分の農産物や加工残渣を用いて新たな事業を展開できるようになります。有用物質を抽出した後の残渣からは、調湿性などの機能を持った炭やバイオエタノールを製造します。このような一連の研究開発がスムーズに行える枠組みを整えることがプロジェクトの目的です。

生産者は高付加価素材を利用して、どのように事業化するのですか?

例えば、アンチエイジング(老化抑制)効果があり、化粧品に使えそうだとなれば、抽出・濃縮した成分を大手メーカーや専門商社に販売することができるでしょう。近年、農業分野では六次産業化や農工商連携が推奨されています。六次産業とは、第一次産業(生産)、第二次産業(加工)、第三次産業(流通・販売)の一体化を促進し、地域に新たな食農ビジネスを創出しようとする取り組みです。しかし、現状では、例えばジャムなどのように調理したものを小売りする程度で、農産物の新しい機能や効能を解明し、付加価値の高い新製品を作り出す事例はほとんどありません。農産物や加工残渣に含まれる成分やその機能を調べたくても、どこに頼めばいいのか分からない生産者が今は大多数だと思います。その問題を解消し、さらに企業とのマッチング、製品パッケージのデザイン、販売店の開拓までサポートして、新しい六次産業のモデルを作りたいと考えています。

プロジェクトにはどのような方が参画されるのですか?

関西大学の教員を中心に、学外の研究機関、京阪神の自治体、農業法人、食品機械メーカーや運輸会社、製茶組合など多彩な法人・個人にご参加・ご協力いただいています。特に、理工系の研究者のほか、社会科学系の先生方にも参加していただいていることは、このプロジェクトの大きな特徴です。社会学部心理学専攻の池内裕美教授には、消費者心理を考慮した商品デザインや販売戦略でご協力いただきます。30年間で5000社以上の中小企業を訪ね歩いた経験をお持ちの大西正曹名誉教授には、企業の紹介・交渉・調整などで大きな力になっていただいています。


農工商連携による新六次産業のためのバイオリファイナリー

採算性の高いバイオエタノール製造技術を開発

このプロジェクトの中で、片倉教授の役割は?

全体の構想を描き、協力いただく生産者、研究者、企業の間をつないで調整するコーディネーター的な役割をしようと思っています。また、残渣からのバイオエタノール生産は、私が研究開発したシステムを利用します。最後の残り物の処理において、いよいよ研究者としての私の出番になるということです。

それは、どのようなシステムですか?

バイオマスからエタノールを生成する従来の工程は、原料に水を加えて発酵させ、エタノールを蒸留回収したときに大量の水を排出します。わざわざ水を加えて、後でまた水を取り除くわけです。廃水処理にも当然多くの経費がかかるわけですから、できるならば、最初から水を入れない方が効率的ですよね。
 私が開発した固体連続併行複発酵(CCSSF)システムは、糖の分解と発酵を1つの槽で同時に行い、連続的にエタノールを回収するもので、糖化酵素、水が少量で済む省エネルギー低コストのシステムです。2010年度から3年間、環境省の地球温暖化対策技術開発等事業の委託を受けて実験装置を製作し、食品廃棄物などからエタノール製造を試み、パイロットスケールではこの条件下ならばこの程度の収率が期待できるという検証は終わっています。
 そもそも、今回のプロジェクトもバイオエタノールの研究がきっかけでした。日本でのバイオエタノールの生産はどう逆立ちしても採算が合いません。バイオマスの運送に大きなエネルギーを消費し、コストもかかってしまうからです。できるだけ運ぶ距離が短くなるように生産拠点を起点とした地域分散型にすると、今度は1カ所の生産量が少なくなり、固定費が上がってしまいます。そこで解決策として私が考えたのは、バイオマスからエタノールだけを作るのではなく、他の付加価値のある物も作ることによって、収集・運搬、圧縮、脱水のコストを下げることでした。このアイデアが今回のプロジェクトにつながっています。


  • 固体連続併行複発酵(CCSSF)システム

「WHY」を問い、「HOW」を考える

これまでどのような研究をされてきたのですか?

私の専門分野は微生物工学で、乳酸菌、酵母などの微生物をはじめとする生物の機能を上手に使って産業に結び付ける研究をしてきました。学生時代の、微生物の培養や酵素の精製から始まり、就職した製パン用イーストメーカーの研究所では、酵母の培養において収率を高めるにはどうすればよいかを研究したり、イースト菌の交雑育種をしたり、1つのテーマにじっくりと取り組むというよりは、いろいろなことに手を出してきました。何にでも興味を持ってしまう性格なんです。おかげで、関連の薄いと思われていることでも、こことここがつながれば面白い成果が生まれるといったひらめきはあると思っています。

このプロジェクトは各方面に影響を与えそうですね。

農産物などに含まれる未利用な成分に関する学術研究、地域の農工商の連携、農業生産者が加工・販売まで行う六次産業化などを加速させることができればいいですね。また、次の世代の研究者、技術者を育てる機会にもなれば、とも思います。そのために、博士課程の大学院生にリサーチアシスタントとして参加してもらい、基礎研究を実際に社会に応用していく考え方と実行のプロセスを身近に体験してもらおうと考えています。

教育者として学生達に特に心掛けるように指導されていることはありますか?

何のためにその研究をやるのかを見失い、研究のための研究になってしまうことがないようにと常に言っています。このプロジェクトについても、学術的な興味だけでなく、どうすれば産業化できるのかということを常に考えてきました。理学部と工学部の違いを考えると、理学部は「なぜ」に軸足を置き、工学部は「どうやって」に軸足を置き研究すると言われています。どちらを選んでも良いが、どちらかだけの研究はしない方が良いと話しています。「なぜ」だけでは自己満足に終わってしまいますし、「どうやって」ばかりで「なぜ」を考えないで試行するのは愚かなことだからです。目的を考えた上で試すのが真の科学者だと言えるでしょう。