ナノワイヤ技術の研究拠点を目指す
新宮原 正三 教授

ナノテク:超高感度センサー・エネルギー変換素子

ナノワイヤ技術の研究拠点を目指す

ナノワイヤを用いた超高性能センサー及びエネルギー変換素子の研究

システム理工学部 機械工学科

新宮原 正三 教授

Shoso Shingubara

文部科学省平成22年度私立大学戦略的研究基盤形成支援事業に採択された「ナノワイヤを用いた超高性能センサー及びエネルギー変換素子の研究」では、先端科学技術推進機構・システム理工学部、及び関連企業の11人の研究者が、ナノワイヤを用いた超高感度磁気センサー・化学センサー等の高性能センサー、及び太陽電池・熱電変換素子等の高効率エネルギー変換素子を研究開発する。今回の研究最前線は、当プロジェクトの代表者である新宮原正三教授に聞いた。

ナノワイヤ鋳型形成・成長技術の実績の上に

私立大学戦略的研究基盤形成支援事業に採択された研究プロジェクトの目的や概要について。

最近の科学技術への期待は、よりエネルギー消費が小さく、安全で利便性の高い技術へと向かっています。ナノワイヤはその期待に応えることのできる物質であり、体積に対しての表面積比率が著しく高く、高感度センサーやエネルギー変換素子への応用に適した材料です。
 本プロジェクトでは、私たちが独自に開発した技術である「ポーラスアルミナ・ナノホール(AAO)テンプレート(鋳型)」を用いて、数十ナノメートル(nm)以下に直径を制御した各種ナノワイヤを作成し、これらを使って高性能センサーと高効率エネルギー変換素子を研究開発します。
 研究体制としては、機械工学科、電気電子情報工学科、物理・応用物理学科の3学科にわたっています。ナノワイヤ鋳型形成・成長グループが供給する各種のナノワイヤを用いて、4グループが次のような研究を推し進めます。
 ●磁性体コンポジットナノワイヤを用いた超高感度磁気センサー
 ●高密度半導体ナノワイヤの成長と高効率太陽電池
 ●半導体ナノワイヤを用いた高感度化学センサー
 ●半金属ナノワイヤを用いた高効率熱電変換素子
 ※1nm=10-9m=10億分の1メートル

ナノチューブよりも実用性に優れたナノワイヤ

ナノワイヤはナノチューブほど一般に知られていないようですが、ナノワイヤを用いるメリットは?

ナノ細線のうち、ナノチューブと呼ばれるものは真ん中にすき間がありますが、ナノワイヤは中身が詰まっています。ナノテクブームでカーボンナノチューブが脚光を浴びて、日本でも多くの研究資金が投入されていますが、私どもの目からみるとあまり成果が出ていません。トランジスタに応用でき、超高速スイッチング動作も確認されているということですが、集積化がけっこう難しく、半導体と金属を作り分けることができないのです。結局、ナノチューブは思ったほど実用に適さないことが分かってきました。
 一方、ナノワイヤのほうは半導体、金属で作り分けることができます。半導体や磁性体など、いろんな物資をナノ構造に作り込んでいく技術があれば、大量に作ることもできます。それぞれのアプリケーションに適したナノ構造体を選んで作れるメリットがあります。ナノ粒子という切り口もあるのですが、ナノワイヤは電極を付けるのに適していて、集積化もうまくやればできます。
 半導体ナノワイヤに関しては、欧米で新規のセンサー技術についての研究が急速に進展しています。一方、わが国ではナノワイヤ分野の取り組みが全般に著しく遅れており、急いでナノワイヤ研究拠点を立ち上げねばならない時期が来ています。

世界初!シリコン基板に垂直な単結晶シリコン・ナノワイヤの成長

ナノワイヤを作る技術のベースになっている「ポーラスアルミナ・ナノホール(AAO)テンプレート」とは?

簡単に言うと、アルミニウムの食器に使われているアルマイト処理をした多孔質の鋳型です。食器類はアルミニウムを陽極酸化して、酸化膜の厚い皮膜を作って保護しているのですが、電圧一定でアルマイト処理をすると、表面に垂直なナノホールが平行して成長するということが分かってきたのです。1990年代後半よりナノ構造形成のための鋳型に利用する研究がなされてきました。
 陽極酸化アルミナは、さまざまなサイズのナノホールの規則配列を自己組織的に形成することが可能な物質です。十数年の間に世界中に広まって、ナノテクを牽引する技術の一つになっています。私どもはかなり早い時期に、1996年ぐらいから手がけてきています。ホール直径は陽極酸化電圧にほぼ比例し、5nm~500nmの範囲で制御可能です。

特に、シリコンなどの半導体基板上にナノホール配列を形成する技術は、世界に先駆けて確立されたのですね。

センサーや太陽電池に応用するためには、結晶性が良くないといけませんから、単結晶シリコン・ナノワイヤを作りたいわけです。単結晶ナノワイヤを生やすには、単結晶のシリコン基板の上から生やすのがいちばん良いのです。シリコン基板上にきれいなナノホール配列を作るという部分に関しては、世界的にもトップレベルの技術を持っていましたので、シリコン基板上に垂直に生えた単結晶のシリコン・ナノワイヤの成長に世界で初めて成功しました。2006年から2007年にかけて論文を発表しています。
 シリコン・ナノワイヤの成長は、基板に斜めに生やすのはかなり簡単なのですが、垂直に立てるのは難しい。垂直に高密度に立ったナノワイヤだと応用がしやすく、例えば縦型トランジスタを作ることも可能です。また、太陽電池への応用もかなり期待できます。入ってきた光が反射・散乱して外に飛び出ることがなくなり、内部に取り込まれて吸収効率が上がる結果、エネルギー変換効率も上がることが予測されるからです。


基礎技術(ナノホール鋳型)の準備状況


ナノホールの上面図

応用範囲は広く、社会に貢献できる

今回の研究成果によって将来的に期待されることは?

高感度ナノワイヤセンサーは、図に示すとおり、さまざまな分野での産業応用が考えられます。
 
 高密度記録媒体や電子機器、輸送機器や医療機器などの精密機械に利用される各種センサーの性能が飛躍的に向上し、より安全な高度情報社会の実現に貢献できます。また、省エネルギー化、クリーンエネルギー化に大きく寄与しますので、地球環境保全に貢献できます。


高感度ナノワイヤセンサーの産業応用