フォロワーの意識を変化させ 依存しない関係へ
小野 善生 准教授

リーダーシップについてフォロワーの視点から研究

フォロワーの意識を変化させ 依存しない関係へ

組織の中で、自主的に動くフォロワーを育てるには

商学部

小野 善生 准教授

Yoshio Ono

20世紀初頭よりリーダーシップ研究が進められていくにつれ、リーダーシップとはリーダー(導く人)とフォロワー(ついていく人)の相互作用の結果により生成するものである、という見解が強まってきました。フォロワーが自己概念をどう変えるか、そのためにリーダーはどう振る舞うか。リーダーシップをフォロワーの視点から研究している商学部の小野善生准教授に話を聞きました。

リーダーシップに欠かせないフォロワーの存在

フォロワーシップとは?

フォロワーシップという考え方の起こりはアメリカであり、「リーダーに頼らず自主的に動ける」、「積極的に批判ができる」ことをいいます。組織の成功はリーダーのみにかかっているのではなく、リーダーに従い、共に働くフォロワーの能力が大きく関わってくるということに着目した考え方です。

なぜフォロワーシップが必要なのでしょうか。

ここ数年、政治や企業において、失敗するとリーダーに責任を押し付けて首を挿げ替える傾向があります。責任はトップだけにあるのでなく、そのトップについて行った人、すなわちフォロワーにもあるはずであり、リーダーシップがリーダーだけの問題に済まされすぎているのが気になります。
 また、社会が成熟して豊かになり、何もかも手に入る状態である今、手に入らなかったり不都合であった場合は、すぐ誰かに頼る傾向もあります。「あの人の言うことを聞いておけばいいや」とリーダーに“依存”するのです。リーダーが事をうまく運んでいるうちはよいのですが、うまくいかなくなると頼るべき人ではないと離れていきます。依存関係は短期的には機能しますが、極めて脆弱な関係であり、日本においてリーダーシップが機能しない理由の根本にそれがあると考えられます。
 リーダーは組織のトップ、凡人にはなれないという位置づけにされがちですが、リーダーシップは特定の人間の問題ではなく、組織に関わる全ての人間の問題です。会社の部下に対してやコミュニティなどにおいて、いつ何時誰がリーダーになっても不思議ではないのです。

フォロワーの意識を変化させ、成長を促す

依存関係にならないために、リーダーはフォロワーにどう働きかければいいのでしょう?

リーダーシップの根底にあるのは“変化”であり、目的達成に向けて協力するよう、フォロワーが意識を変えるよう促すことが必要です。問題なのは、変化がこれまで正しいとされてきたやり方の否定につながるということです。例えば、無人島で2人きりになった場合、魚の釣り方を知っている人は、釣り方を知らない人に魚を与えるのではなく、釣り方を教えてあげるべきです。釣り方を知っている人が死んだり事故にあった場合、残された人はひとり無人島のリーダーにならなくてはいけないからです。“依存”は答えを与えてしまうこととなり、フォロワーの成長が否定されてしまいます。かといって一気に事を進めると、フォロワーのストレスが極致に達する可能性があり、リーダーはそのストレスをうまく調整しつつ、変化を促さなくてはなりません。

リーダーにとって、変化の過程における問題とは?

一つは、新しい環境への適応を求められるフォロワーは、リーダーが先行きを明示してくれなければ不安になるということです。政治家が「○○のコストを25%削減する」と言ったとします。これだけであなたはついていきますか?これはビジョンではなくゴールであり、ビジョンたるには削減した暁にどういう国家が成り立っているのかまで明示する必要があります。先の見せ方が下手なリーダーに、フォロワーはついていきません。
 もう一つは、一般的にリーダーシップ=組織をひっぱっていく力というイメージがありますが、それだけでは駄目ということです。リーダーはフォロワーの能力を引き出して成長させることを考え、フォロワーが新しい環境に適応できるよう促すことが必要です。指示命令を与えるのではなく、挑戦課題を提示、または問題に気付かせるというイメージです。その際、与える課題のレベルが高すぎるとフォロワーはなびかず距離は離れてしまいます。フォロワーが成長するためのヒントを与え、フォロワー自身に気付いてもらうよう振る舞えれば、より成熟した関係を築くことができます。
 リーダーは、フォロワーに自己否定させる、先行きの不安を与えるという2つのリスクをとる覚悟が必要であり、フォロワーは自分の成長を実感し、リスクがあっても変わろう、この人なら信頼できる、この人となら責任を共有できる…というところまで積極的に問題に関与しなくては目的に到達できません。

社会におけるリーダーシップの変遷

求められるリーダーシップ像について。

経済が成長過程にあった時代、メインのリーダーシップは工場の経営、ブルーカラーをどうモチベートしていくかであり、仕事に関して的確な指示をし、人間扱いしてくれるリーダーが必要とされました。その後、オイルショックなどで世界情勢が不安定になり、80年代にアメリカに現れたのが熱狂的な支持者を従えるカリスマリーダーです。しかし、これは後が続きませんでした。そこで90~2000年代に始まったのが、リーダーシップはリーダーだけの問題ではなく、フォロワーシップがいかに重要であるかという研究です。リーダーの倫理性も問われるなかで、フォロワーの自己概念、フォロワーを積極的にどう意識変化させていくかということが、これからのリーダーの課題であり社会全体の課題でもあります。