直動型静電マイクロアクチュエーターの高出力化に挑戦
山口 智実 教授

ナノスケールの切削加工機開発に向けて

直動型静電マイクロアクチュエーターの高出力化に挑戦

省エネルギー、低コストの電子デバイス部品製造への基盤技術

システム理工学部

山口 智実 教授

Tomomi Yamaguchi

ナノテクノロジーは、情報、医療、エネルギーなどさまざまな分野において重要な基盤技術となっています。特にナノメートル(10億分の1メートル)単位の微細加工は、これからの省資源・低コスト型産業に欠かせない重要な技術であり、各方面から強い期待が寄せられています。ナノテクノロジーへの関心が高まる中、システム理工学部の山口智実教授は、マイクロ加工技術の開発に向けての研究に取り組んでいます。

環境配慮型産業の発展を担うナノ加工技術

ナノテクの中でも超小型の加工機の開発は、まだ実用化が進んでいないそうですね。

ナノテク分野では、光や圧力を測定するセンサ技術などはすでにさまざまな分野で幅広く利用されていますが、素材に力を加えて、切ったり曲げたりする加工技術は、現在のところ実用の段階に達していません。しかし、巨大設備を使って大量に生産するという考えを改め、環境に負荷を与えない、資源のむだ遣いをしない、省スペースで必要な量だけを短時間で作っていこうというこれからの産業のあるべき姿を考えると、マイクロマシンへのニーズはますます大きくなることは間違いありません。

山口先生の微細加工技術についてご紹介ください。

私の研究室では、マイクロマシンの開発に欠かせないアクチュエーターの開発に取り組んでいます。アクチュエーターとは、電気などのエネルギーを与えると機械を動かす装置です。私たちは昨年アクチュエーターを作成し、動かされる側の機械の開発も行いました。それはナノメートルサイズの極小なヤスリのような切削部品でした。しかしこの部品を十分に稼働させるには、そのアクチュエーターでは全くパワーが足りなかったのです。そこで、原点に戻ってアクチュエーターの再設計を行いました。

今回開発されたアクチュエーターは、従来の試作品の120倍の出力を実現しましたね。

電気エネルギーを効率よく駆動力に変えるためのデザイン変更には頭を悩ませました。アクチュエーターには櫛の歯型をした部分があり、この歯を細くして数を多くすれば理論上効率があがります。しかし櫛を細くせず歯を増やしてもアクチュエーターが大きくなるだけで、かえって逆効果になります。試行錯誤の結果完成した今回のデザインでは、歯の数が24倍となりました。従来型よりも90倍の大きさになったものの、120倍という大きな駆動力を実現し、切削部品を十分に動かすことができました。今回の研究からは、将来のマイクロマシン開発につながる貴重なノウハウが得られたと実感しています。今後はさらに高出力なアクチュエーターの開発に取り組みたいと考えています。


  • 研究室で開発したマイクロマシンのしくみ。赤い丸の部分が今回開発したアクチュエーターと切削部品。ヤスリのように下から素材を削る


  • 削られる素材(半球部分)。基板の大きさは一辺約3ミリメートル


  • アクチュエーターと切削部品のイメージ図


  • アクチュエーター(手前)と切削部品(突起部分)のイメージ図


  • アクチュエーターと切削部品の顕微鏡写真。実際の大きさは一辺が約5600マイクロメートル

未知の分野を切り開くのは、知識の蓄積と豊かな想像力

マイクロマシンの研究で注意しているのはどんな点ですか?

小さいものに携わっているという認識をしっかり持つということですね。ナノスケールの世界では、静電気や材料表面の粘着力など、マクロスケールではあまり注意を払う必要のない要因も大きな影響を与えます。このような作用について理解を深めるにはしっかり知識を積み重ねていく努力と、可視化できない世界で「今、何が起きているのか」を視覚的にイメージする想像力の両方が必要です。

研究の発展につながるアイディアはどうやって生み出されるのですか?

私はつねづね学生たちに「思いついたら、とにかくやってみよう」と言います。ナノテクノロジーに限らず素晴らしい発想は、挑戦と失敗を繰り返すことから生まれるものではないでしょうか。これからも、頭と体の両方を動かして新しいことに取り組んでいきたいと思います。