蒸気発生器の超小型化を追究
松本 亮介 准教授

「家庭用小型ガス焚き過熱蒸気発生器」の開発

蒸気発生器の超小型化を追究

「管状火炎マイクロ蒸気発生器」の開発にも着手

システム理工学部

松本 亮介 准教授

Ryosuke Matsumoto

松本亮介准教授の研究室では、熱工学の基礎から燃焼に関する設計開発の現場まで、幅広い分野のテーマに取り組んでいる。ボイラーの熱伝達や伝熱特性などの研究成果を生かして、ガス会社と共同で進めてきた「家庭用小型ガス焚き過熱蒸気発生器」の開発は、いくつかの困難な課題を解決し、さらに「管状火炎マイクロ蒸気発生器」の開発へと歩み続けている。

ガスが作り出す蒸気で強力に調理

開発中の家庭用小型ガス焚き過熱蒸気発生器は、今までのオーブンや過熱蒸気による調理機器と、どこが違うのですか。

従来のオーブンは、熱源からの放射伝熱や高温の風を流す対流熱伝達という方式で、肉などを調理していました。そうすると、肉の周りには空気があるため、油が酸化してしまいます。これに対して、250~300℃の過熱蒸気を利用するオーブンは、肉の周りに蒸気がついて非常に速く熱が伝わり、過熱蒸気に満たされているので酸化もしない。脱油、脱塩もできるということで注目を浴びています。
 しかしながら、市販されている家庭用過熱蒸気調理器には、調理に時間がかかるという大きな欠点があります。原因は、電気ヒーターによる加熱であるため、普通の家庭用の電気では1.5kWまでの電力しか使えず、蒸発量が1分間に約30ccに限られるからです。
 一方、ガスによって加熱すると、5kWの高出力、蒸発量も1分間に約90ccとなり、電気の3倍程度の熱量を投入して一気に蒸気を作ることができます。ただし、実用性を考えると家庭用ガスコンロに収納できるまで小型化しなければならない。ここまで超小型の燃焼器(バーナー)と蒸気を作り出すボイラーは、従来の機器にはありませんでした。

100℃の湯から300℃の蒸気へ

ガス給湯器や湯沸かし器は、開発の参考になりませんか。

それらはお湯しか出ません。お湯から蒸気に持っていくには、蒸発に非常に大きな熱量を必要とします。100℃の水を蒸気にするには,冷水をお湯(20℃から80℃)にする熱量の約9倍もの熱量が必要です。そこに大きなステップがあります。もちろん家の中で使いますので、不完全燃焼が起きてはだめです。
 バーナーの高さが150mm、その中にボイラーを組み込むので燃焼する空間がたった100mm、実際には60mmなんです。その程度の空間で、都市ガスを5kWという燃焼量で完全燃焼させなければなりません。そこが一番の問題です。
 やかんなどでお湯を沸かす場合、狭い空間で燃えていると思われますが、実際にはやかんの横を流れながら完全燃焼しているのです。もう一点は、100℃の湯からさらに200~300℃の蒸気に持ってくるための構造が必要であること。世の中にあるボイラーは、この1000倍の大きさなんです。つまり、1000分の1のサイズのボイラーを作るという話になってきます。

随所に不完全燃焼を起こさない工夫

かつてない超小型ボイラーと、狭い空間で完全燃焼するバーナーの二つを開発するという話ですね。

3年ほど前から始めて、バーナーを作っては壊し、作っては壊しして、10個ぐらい作ってきました。こういう設計はコンピュータでするのが通常なのですが、小型ボイラーの形も、空気や熱の流れ方や特性も全く決まっていませんから、シミュレーションが不可能で、実際に手作業で作っていくほかなかったのです。
 冷たい空気を使ってバーナーで燃やすと不完全燃焼を起こしやすいので、内部で空気を循環させながら温めています。約300℃の予熱状態の空気とガスを混ぜて、燃やします。排気ガスの流れも工夫して、ボイラーの部分で冷やされて一酸化炭素が出ないように、斜めに旋回させています。らせん状に渦を巻きながらガスが流れる時間を稼いでいるのです。そこで、旋回の角度をどうするか、直径をどうするか、噴出速度をどうするか。数値計算もしますが、結局はたくさん作って、これは燃える、これは燃えないという実験を重ねてきました。
 ボイラーのほうは、ガスコンロに収まるサイズですが、大型の産業用ボイラーと同じ構造を備えています。蒸気が回っている間に100℃から300℃まで温度が上がり、過熱蒸気となって出ていきます。バーナーを完全燃焼させるために、らせん構造にして滞留時間の長い旋回流にしていますので、ボイラーも円形に変えました。


管状火炎マイクロ蒸気発生器の開発

バーナーの旋回流、燃焼騒音の問題も解決

そのほかにも、難しかった点や問題点は?

最初のころは、せっかくバーナーを作って火をつけようと思っても、旋回流の角度がきつすぎたりして火がつかない。データも取ることができないという状態が何カ月も続きました。何度も作っては壊しているうちに、今の形にたどり着いたのです。
 一酸化炭素濃度は、最初の24孔では十分に旋回流を作れずに、不完全燃焼が起きていましたが、直径を大きくすると100ppmを切るようになり、さらにガスと空気の噴出孔を二重にした二重環状バーナーにより10ppm未満を達成しました。ここまで下がれば問題ありません。
 この1年間は、燃焼騒音の問題に取り組んできました。しっかりと燃えると音が鳴り出したのです。密閉した空間で燃やしますので、笛のような400Hz程度の音が鳴り、それを消すのに苦労しました。空気と燃料の混ぜ方を変えることによって、やっと解決しました。

管状火炎による超小型蒸気発生器

第二の過熱蒸気発生器として考えられている「管状火炎」について。

管状火炎とは、円筒の燃焼管内に燃料と空気を供給することによってできる管状の火炎です。これを工業機器として応用するような研究は全くなかったのですが、われわれは管状火炎内の高温の燃焼ガス中に水管を設置し、燃焼器と熱交換器が一体となった超小型蒸気発生器の開発を始めています。
 まずは安定した火炎を形成しなければなりません。管状火炎の内側の高温のガスは、水管のない状態では安定して燃えるのですが、水管を入れてやると一定の範囲でしか安定した燃焼ができません。水管の直径を変えていろいろ実験しました。
 現状はあくまで基礎研究で、まだ水が湯に変わっているだけで、水を蒸気に変えることができていません。火炎が安定して存在する、不完全燃焼を起こさない範囲を調べています。さらに、熱交換器と燃焼器の融合するようなかたちで次のステップを考えているところです。