数理経済学をベースに経済効果を分析
宮本 勝浩 教授

スポーツや工場立地などの経済効果を算出

数理経済学をベースに経済効果を分析

広い視野に立った論理的な思考方法が身につく経済学

大学院会計研究科

宮本 勝浩 教授

Katsuhiro Miyamoto

今年のプロ野球は阪神タイガースが首位を突っ走り、関西大学出身の岩田稔投手が目覚ましい活躍ぶりを見せてくれている。優勝すれば大阪の町は活気づき、経済効果も期待できる。阪神が18年ぶりにセントラルリーグで優勝した2003年に、いち早く優勝の経済効果を分析して注目を集めたのが宮本勝浩教授。その後もいろいろな経済効果を発表してきた宮本教授に、どのように効果を算出するのか、調査や分析の方法を聞いた。

2003年阪神優勝の経済効果推定値を発表

経済効果を示す数字の背後には、膨大なデータと綿密な計算がある。宮本勝浩教授はもともと理論経済学が専門で、中でも数学を使う数理経済学を研究していた。数学のヨーロッパの雑誌に論文を発表したこともある。発展途上国や社会主義の経済システムが自由主義市場経済に移行する際に起きること、必要なことを、数学モデルを使って研究してきた。
 しかし、文系の経済学部には数学が苦手な学生が多いため、できるだけ興味を持ってもらおうと、地元の関西を対象に経済分析をするようになった。そして、2003年の阪神タイガースの快進撃。1985年の日本一以来、17年間に最下位10回という弱小球団になっていた阪神タイガースは、星野仙一監督の2年目に圧倒的な勢いで勝ち進んだ。阪神フィーバーが起こり、平成不況にあえぐ日本経済、特に関西経済にとって大きなプラス作用をもたらした。宮本教授は4月の時点で、関西地域における阪神優勝の経済効果を推定した。
 「その時の推定値は、直接的経済効果の総額は475.7億円、産業連関表を用いて計算した波及経済効果は総額734.4億円でした。この推定値は、前年までのデータに基づいて計算した値であり、4月~6月の阪神フィーバーは空前絶後でしたので、実際の経済効果は前年までのデータに基づいた4月の推定値を大幅に上回るであろうと考え、7月に修正版を作成しました」
 その推定値は表のとおりである。

阪神百貨店や尼崎商店街で調査、データ収集

「阪神が優勝したらどのような経済効果があるか」。この推計を可能なかぎり現実に近いものにしようとすれば、机の上の計算だけでは成り立たない。阪神百貨店や尼崎の商店街に学生を連れて行き、顧客にインタビューをした。「阪神が優勝してセールをしたら、また来ますか、どれぐらい買いますか」というような質問項目を用意して、合わせて約120人に聞いた。データを集めてきて、大型イベントや大規模公共工事の経済効果を推計する際に用いる産業連関分析をして、経済効果を計算する。
 「プロ野球球団の優勝の経済効果とは、優勝しなかった時と比較して、優勝した時にその球団や関係企業の売上が増加した際、その増加分とその経済波及効果を推計・試算したものです。優勝した時の総売上が、しなかった時の関係企業の総売上と同じであれば、売上があったとしても、優勝効果はゼロです。阪神優勝の経済効果として、過去5年間の優勝できなかった時の平均値と、優勝時の数値の差額を試算しました」


表:阪神優勝の直接効果と波及効果

8項目の直接効果プラス波及効果

経済効果の推計にあたり、次の8項目を検討し分析した。
 
①観客数増加によるチケットや球場の飲食収入による効果
②優勝セールによる売上増加による効果
③阪神ファンの飲食・飲酒増加による効果
④阪神のロゴマーク入りグッズの売上増加による効果
⑤スポーツ新聞や雑誌の売上増加による効果
⑥放映権、宣伝広告収入の増加による効果
⑦尼崎信用金庫のタイガース定期預金の投資増加による効果
⑧優勝パレードの効果
 
 「7月時の試算では、以上の項目の総額は917.2億円となりました。この効果は直接効果であり、経済効果はこれにとどまらず他にもあります。ある部門の消費や投資の増加により生産が拡大すると、その原材料部門の売上増加にもつながる。この経済効果を1次波及効果といいます。さらに、それらの企業に関係する経営陣や従業員の所得増加が次の消費拡大をもたらします。これが2次波及効果です。これらの直接効果と1次・2次の効果の合計である経済波及効果は、1481.3億円となりました」


阪神優勝の直接効果の計算のフローチャート

算出した推定値は検証結果に近かった

実際の効果はどうだったのか。推定値は外れることなく、当たったのか。
 
 「この年の12月、関西社会経済研究所が阪神優勝の経済効果を検証するために、関連企業を調査した結果を発表しています。その報告書によると、阪神優勝の直接効果は、私たちの推定値917.2億円をほんの少し上回る935.3億円でした。7月段階での推定は、それほど間違っていなかったことになります」
 この経済効果分析が話題を呼び、その後、宮本教授はさまざまな経済効果について分析を依頼され、それを発表している。
2004年:「球界再編の経済効果」、「プロ野球のストのマイナス経済効果」、「東北楽天の宮城県における経済効果」
2005年:「阪神優勝の経済効果」、「セパ交流戦の経済効果」
2006年:「2008年大阪サミット誘致の経済効果」、「ディープインパクトの経済効果」
2007年:「世界陸上競技選手権大阪大会の経済効果」、「シャープの堺市への液晶工場進出の経済効果」
2008年:「東国原英夫宮崎県知事就任以後の宮崎県と東国原知事の経済効果」、「くいだおれ太郎の経済波及効果」、「白毛馬ユキチャンの経済波及効果」
 
 現在、宮本教授は関西経済連合会に協力し、シャープ、松下電器産業、住友金属の大規模工場立地による大阪湾岸の経済効果分析に携わっている。

物事を広い目で見て論理的に考えよう

宮本教授は現在、大学院会計研究科(会計専門職大学院)で経済学の授業を担当している。経済学を学ぶことは公認会計士の業務に役立つだけでなく、大きな意味を持っているという。
 「経済学を学ぶメリットの一つは、広い視野に立ったものの見方ができるようになることです。例えば、高齢者医療や年金の問題を考えた場合、医療費の負担が増えたり年金の給付額を減らされると困るわけですが、誰がそれを支払っているかを考えなければなりません。若い人たちが、多くはない給料の中から保険料や税金を払っている。自分たちが高齢者となったときに今と同じだけもらえるか、彼らは疑問に思っている。給付を受ける人と負担する人とのバランスを取らないと、しかも時代を超えて見ていかないといけないとなると、マクロ的な考え方が必要になる。その上で最も良い経済政策、税制、保険システムを考えていかなければいけない。そういう広い目で物事を見る習慣が身につきます。もう一つは論理的なものの考え方ができるようになることです。経済学的な分析を通じて、感情的・感覚的なものにとどまらない論理的な思考方法が身につきます」