学生が学生を育てる研究コミュニティを形成
田中 成典 教授

CAD 業務を革新する Logical シリーズを開発

学生が学生を育てる研究コミュニティを形成

CADデータの同一性を判別し、差分を検出する技術で、業務の効率化と品質向上を実現

総合情報学部

田中 成典 教授

Shigenori Tanaka

研究室の壁一面に並べられた約50冊の書籍は、すべて田中成典教授とゼミの卒業生・修了生、現在のゼミ生たちの著作物。学部生・大学院生の研究発表には、ゼミのメンバーが学年を超えて参加する。学生ベンチャー企業の(株)関西総合情報研究所は、高い技術を保有し開発実績を上げている。いずれも田中ゼミの意欲的な教育と活発な研究活動の成果だ。国土交通省の委員会の要職も務めている田中教授に、教育と研究の両面から話を聞いた。

ゼミ生全員で「この本を書いてきました」と言える

田中ゼミは、研究活動、執筆活動、ベンチャー企業運営の3本柱で構成されている。アプリケーションシステムの開発を中心に、社会で即戦力となる人材育成を目指し、普通の大学生活では経験できないような実践的な教育・研究活動を行っている。
 関西大学は今年から、文部科学省の学生支援GPに採択された「学生自立型ピア・コミュニティ」によって「社会人基礎力」を養おうとしているが、学生が学生を教え育てるという仕組みは田中ゼミが先駆けて実践してきた。
 研究分野に応じてチームを編成し、学部生と大学院生が一緒に発表を行うことで、研究のコミュニティが形成される。田中教授の前でプレゼンテーションする前に、上位年次の学生のチェックを受けることになっている。これには上位年次が下位年次を育て・育てられる狙いがあり、社会に出てからの部下への指導や、上司との付き合い方を身につけるのにも役立つ。その前に、学生は自分が将来就きたい業種・職種や志望する会社に合った研究テーマを自ら探す必要がある。
 また、田中ゼミの学生は卒業するまでに必ず1冊以上の本を書くことになっていて、内容別にユニットを組んで執筆活動を行う。
 「学生に習得してほしいことは三つあり、文章が書けること、コミュニケーションができること、自分の得意分野となるコアの情報処理技術を一つ持つことです。約2年間かけて本を作るプロジェクトを進めていくと、文章力とコミュニケーション能力、そしてコアの技術も身につきます。また、就職活動に際して、出版された本は大きなアピールポイントになります」

(株)関西総合情報研究所と連携し、大学教員・研究者を輩出

JR新大阪駅の近くにある株式会社関西総合情報研究所は、総合情報学部の学生が2000年に起業した学生ベンチャー企業。学生パワーをフルに活用したシステム開発やコンテンツ作成を得意としている。既に約50社と取引がある。
 田中教授が非常勤取締役会長を務めており、メンバー全員が田中ゼミの出身者である。メンバーになる条件は「博士号を取得し大学教員・研究者になりたい、と宣言すること」
 同研究所の業務の中には、ベンチャーメンバー以外のゼミ生で対応できるものがあり、ステップアップして力をつけたゼミ生のアルバイトにもなっている。そうすると学生は、研究、本の執筆に加えてベンチャーの仕事のユニットにも参加することになる。
 こうして鍛えられた成果は、卒業生・修了生の進路にも表れている。大学院へ進学する学生が多く、この8年間で、関西大学大学院43人、大阪大学大学院3人、奈良先端科学技術大学院大学2人、東京大学大学院1人、北陸先端科学技術大学院大学1人となっている。
 巣立ったドクターは5人で、宮城大学、阪南大学、文教大学、神戸情報大学院大学の教員、独立行政法人土木研究所の研究員として就職し、活躍中だ。また、習得した情報処理技術や開発力を活かし、松下電器産業、シャープ、富士通、日本電気、日本IBM、日本ヒューレットパッカード、富士ゼロックス、キヤノン、大日本印刷、マツダ、リクルート、TIS、JIP、オージス総研、NTTコミュニケーションズをはじめ多様な企業に就職している。


  • 田中ゼミの 3 本柱

目視を超えたLogical Smartによる同一性判別

田中教授は、1997年に建設省(現在、国土交通省)のCAD製図基準検討委員会の委員長を務めて以来、ISOに関するCADの「表記標準化」と「データ交換基盤」の委員会の委員長および委員を務め、わが国の建設情報の標準化に貢献してきた。
 国土交通省のe-Japan戦略が推進する電子納品業務では、その大半のターゲットはCAD図面で、その納品にあたり、CADデータの原本確保、改竄(かいざん)防止が重要な課題となる。複数のCADデータが同一であることを判断するには目視に頼る場合が多く、時間がかかるうえ正確な判断ができない場合もあり、判別精度も高くはなかった。
 そこで、これらの問題を解決するために、田中教授はCADデータの同一性を判別し、差分を検出する「Logical Smart」を(株)関西総合情報研究所にて開発した。これは、CAD図面データ交換フォーマットの標準仕様であるSXFファイルの二つのデータから変更箇所を素早く意味解析し、敏感に検出するシステムである。差分データから修正箇所を抽出できるため、修正履歴の蓄積による品質管理も可能になった。
 「CAD特有の許容誤差の問題があり、同一性の判別は困難を伴います。仮定しながら推論する人工知能の技術を駆使して、この問題を解決しました。目視による同一性の判別とLogical Smartによる同一性の判別を行う実証実験の結果、差分検出に要する時間が短縮され、差分検出数に関しても明らかに向上していることが分かりました。Logical Smartを活用することで、CAD/SXFデータを扱う設計・施工業務の効率化と品質改善を図ることができます。Logical Smartは、日本を代表する7社のCADベンダーのソフトウェアに実装・販売され、ユーザから高い評価を受けています」
 さらに、CADベンダー数社に実装・販売されているCAD/SXFデータの入出力処理を従来の2~3倍以上に高速化した「Logical I/O」、三菱電機社と共同でCAD図面や差分情報を可視化する「Logical SXF Viewer」も開発。現在開発中の機能と併せて、Logicalシリーズが業務の工期短縮や品質向上に飛躍的な効果をもたらすことが期待されている。
 ベンチャー企業を通じて多くの企業と協業し、最先端のシーズを巧みに操りながら、社会に広く還元される教育・研究実績を残している。国土交通省をはじめとする建設業界のみならず、情報処理業界においても今後の動向が注目されている教育・研究拠点であると言える。


Logical シリーズ構成図