資源を再生、有害物質を無害化
山本 秀樹 教授

環境再生型の化学生産システムを開発

資源を再生、有害物質を無害化

農・工・医連携で地球環境を守る化学生産プロセスを実現

工学部 化学工学科 プロセスデザイン研究室

山本 秀樹 教授

Hideki Yamamoto

「環境」は21世紀社会の重要キーワード。限りある地球上の資源をどのように有効に再生利用するか、また、排出された有害廃棄物をどのようにして無害化するか。山本秀樹教授を中心とするプロセスデザイン研究室では、化学工学を基礎技術として、農学、医学、薬学といった他分野の技術と連携した研究開発を行っています。社会のニーズに応える環境再生型の化学生産システムの研究とは。

植物の光合成は地球の再生機能の代表例

環境問題への取り組みとして真っ先に思いつくのは資源のリサイクルです。しかし、リサイクルよりもさらに有効で有望な環境保全の方法がある、と山本先生は指摘します

環境問題への取り組みとしてはリサイクルが注目されていますが、資源を循環させるリサイクルには限界があります。地球環境を守るには、再生機能が必要です。原始から地球が守られてきたのも、地球に再生機能があったからではないでしょうか。
 リサイクルとともに廃棄物を処理するにしても、処理したものが残ってしまいます。埋め立てをしたところで、埋め立てる場所がなくなってしまえば終わりです。結局、資源を再生して何らかの原料にするのが最も良い方法なのです。
 イメージとしては、植物を考えてもらうといいかもしれません。植物は地中から水を吸い上げ、葉でその水分を蒸散させています。また、その水と空気中に存在する二酸化炭素から、酸素と炭水化物を作る光合成を行っています。酸素を生み出す植物のお陰で、我々は生命を維持しているのです。
 同様に地球の再生機能に着目し、廃棄物を処理して有効なものに再生していくシステムの研究、また有害な廃棄物をどのようにして無害化するかについての研究を行っているのがプロセスデザイン研究室です。


フロンガスなどの地球温暖化ガスを無害化する実験

農・工・医連携による研究開発を推進

プロセスデザイン研究室が目指す領域として、環境制御工学と環境再生工学があります。これは従来の応用化学とは異質のもので、既存のプラントの中に地球環境再生型の化学生産システムを導入していくという実用的なものです。現在、さまざまな分野でさまざまなプラントが稼働しています。これらのプラントに当研究室が開発した地球環境再生型のシステムを導入することで、排出物・廃棄物を無害化し、資源を再生していくことが目標です。だから、どんなプラントにも活用できるように、研究内容は工学分野にとどまらず多岐にわたっています。医学や農学との連携もその例です

例えば、農学との連携としては機能性高分子ゲルの開発があります。お盆のころのトマトは大きいけれども水っぽくなってしまいます。逆に、甘いトマトを作ろうと思えば、トマトの水分を減らしストレスを与えることも一つの方法です。つまり、根に水分吸収のコントロール機能を付ければ甘いトマトができるのです。そこで、根に水の吸収を制限するゲルを付けて甘いトマトを作る方法が考えられます。ゲルは初期状態では雑菌がありませんし、回収処理や復旧作業も容易です。ハウス栽培への応用が十分可能なのです。
 医学領域との連携としては、動脈硬化や高脂血症などの生活習慣病の予防に役立つ研究が進行中です。それは超小型レオメーターによる血液の流動特性自動解析システムの開発、および血液疾患の予測を目的とした血液粘度評価システムへの応用です。
 農学も医学も環境と関係の深い分野です。工と農・医、さらに薬学を連携させた研究を行い、これらを有機的に融合させることによって、次世代の地球環境保全を視野に入れた再生型化学プロセスの開発が可能になると考えています。


農・工・医連携による環境再生のための要素技術開発

食品廃棄物から有効成分を抽出、原料に再生

「研究内容は多岐にわたる」と言う通り、研究室では、半導体製造工程から排出される地球温暖化ガスの無害化処理をはじめ、感温性高分子ゲルの合成と排水中の塩素系有害有機物の吸着除去など、さまざまな研究が行われています。中でも、実用レベルで注目を集めているのが、食品廃棄物の有効利用技術の開発です。廃棄物の中で食品廃棄物の占める割合はかなり高く、人間が生活をしていく以上、どうしても発生するものです。それにもかかわらず、食品廃棄物は、「食べるものだから」という意識もあって、安全性や環境への配慮を怠りがちです。各食品製造会社で焼却処理などがされてきましたが、コスト面でも大きな課題になっています

確かに、食品廃棄物の処理については、重金属やプラスチックなどに比べて遅れていました。しかし、『食品リサイクル法』ができて、一定量(年間100トン)以上の食品廃棄物を排出する会社は、その廃棄物の20%を処理もしくはリサイクルすることとなりました。これは食品製造会社にとってはかなりの負担です。
 食品廃棄物の中でも、最も利用価値が高いと考えられるものの一つに醤油粕があります。醤油粕は年間約11万トン以上出ていました。原料は大豆と塩、小麦粉です。大豆は生活習慣病の予防効果や抗がん作用があると言われているイソフラボンが豊富で、しかも一度発酵していますから、人間の体にとても良い状態になっています。そのまま食べても体に良いのですが、食べるには塩が強すぎます。かといって、焼却処理すると塩が含まれているためにダイオキシンが発生するのです。従って、これまで醤油粕はすべて産業廃棄物になっていました。
 そこで、まず考えたのが塩を抜く方法です。そこから始まって、現在は塩、イソフラボン、大豆粕と3つに分離しています。分離すれば、イソフラボンは使い道がありますし、大豆粕は塩分が抜けていますから処理も簡単になります。また、塩はそのまま食用にはできませんが、塩石鹸の材料などに使えます。こうして、醤油粕という廃棄物を何かの原料に再生することができるのです。
 食品廃棄物の有効利用としては、他にホップ粕からポリフェノールの抽出、唐辛子からのカプサイシンの抽出も行っています。カプサイシンについては抽出だけではなく、材料に転化することも研究しています。これはもちろん食物としても使えますが、防虫効果もあります。米びつに唐辛子を入れると虫がつかないのは、唐辛子にカプサイシンが含まれているからなんです。そこで、防腐剤の材料として使えないかも研究中です。


醤油粕を原料とした塩(左)と石鹸(大豆イソフラボン塩)

永続的な繁栄を担う化学技術者育成を

プロセスデザイン研究室では、山本先生を中心としながらも、学生一人ひとりがそれぞれプランを持ち、研究に取り組んでいます。「教える側が目立つのではなく、再生型化学生産プロセスの開発という目的を達成できる化学技術者を養成することが大切」と山本先生は言います

大学の研究室ですから、研究だけではなく人材の育成も大切です。単なる技術者ではなく、永続的な人間社会の基盤を担う化学技術者・研究者を育てなければならないと思います。
 環境問題は、「自分だけがよければいい」では解決できません。誰だって自分の子どもや孫が有害な排出物で苦しんだり、有毒なものを食べることになってしまうのは嫌なはずです。製造者もユーザーも、すべての人の子孫が健康で繁栄するように子孫継承型生産システムを考えていくべきです。そのためのプロジェクトにかかわり、環境再生型化学プロセスの開発に必要とされる新しい要素技術をこれからも開発していくつもりです。