お知らせ

【執行部リレーコラム】2つの新書大賞から考える

2017.01.31

副学長 良永 康平
 中央公論新社主催の「新書大賞」は、1年間に刊行されたすべての新書から、その年「最高の一冊」を選ぶ賞である。因みに第9回(2016年)は井上章一著『京都ぎらい』(朝日新書)が大賞を獲得し、過去には第1回の福岡伸一著 『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書)や、第2回の堤未果著『ルポ 貧困大国アメリカ』(岩波新書)なども話題となった。
 私がここで注目するのは、第7回の藻谷浩介・NHK広島取材班著『里山資本主義』(角川oneテーマ21)と、第8回の増田寛也 編著『地方消滅』(中公新書)である。期せずして2年連続、地方の問題を扱った新書が話題を集めた形だ。それだけ地域の問題が深刻であり、関心を持たれているということだろう。もちろん70年代から始まった合計出生率の低下等により、全体としての将来人口の減少はすでに予測されており、実際に2010年を前に減少が始まっている。増田氏の『地方消滅』は、地域単位で具にみてゆくと全国に896もの将来消滅してしまう可能性のある都市が存在し、そのうち523都市はさらに事態が深刻であることを明らかにした点でショッキングな内容であった。その一方で、過去に地方から人口が流れ込んだ大都市は超高齢社会を迎え、医療や介護の人材不足は「深刻」を通り越して「絶望的」な状況になるという。「介護難民」という言葉さえ生まれようとしている。
 それでは、停滞した地域をどのように活性化し、若者を惹きつける雇用を創り出したら良いのか。これも一昔前から様々な提案がなされてきたが、もはや箱物に頼った公共事業や一過性の各種イベントには限界があることは明らかとなっており、新たな模索が始まっている。藻谷浩介氏の「里山資本主義」という考え方もその一つである。日本はバイオマス(生物資源)に恵まれているので、それをエネルギーや建設等に積極的に活用することが地域経済の活性化に大いに役に立つことを藻谷氏は主張している。特に国内ではほとんど自給できない化石燃料の輸入のために、膨大な資金が海外に漏出しており、これが地域経済の活性化に大きな制約となっている。里地里山のバイオマスの利活用で、これを少しでも緩和しようというわけである。
 この「里山資本主義」が面白いのは、もはや使わなくなってしまった里山を逆に積極的に使うことによって、地域の環境問題と経済問題を同時に解決する糸口を呈示している点である。個々の事象を単独で捉えるのではなく、「エコエコノミー」や「グリーンニューディール」のように環境を改善することによって経済の復興を図ったり、雇用の増加や貿易収支の改善を同時に目指したりするような複眼的視野、一石二鳥的政策がますます必要となってきているのではないだろうか。そういう意味では、大学のエコキャンパス化も、環境的にスリム化することによって地域や社会に貢献するだけではなく、大学生の環境教育や環境技術開発のインセンティブ誘発、さらには少子化・大学受験人口減少時代に悪化する大学財政問題を少しでも解決することに繋がるかもしれない。


高槻摂津峡の里地里山(筆者撮影)
高槻摂津峡の里地里山(筆者撮影)