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【芝井の目】「好き」の見つけ方

2019.12.18

 ここに先日行われたある授業の成果を写した一枚の写真がある。そこには生き生きとした笑顔で写る学生の姿があった。

 学長に就任して以来、いくつかの教育改革に取り組んだが、その一つが「プロジェクト学習(航空業界を知る)」(PBL、Project-Based Learning、課題解決型授業)の開設である。12月11日(水)、神戸空港で本学の学生がスカイマーク社の制服を着用し、授業の中のプレゼンテーションにおいて提案した事業アイデアを実践する、という社会実験が、スカイマーク社のご協力のもと行われた。

 春学期に開講した授業において、「 広報・マーケティング 」「 経営企画 」「 顧客満足(CS)」 の 3つの観点から、 新規事業の提案に学生たちが取り組むというもので、授業の最終回には、スカイマーク社のみなさんの前でプレゼンテーションを行った。スカイマーク社から実現可能ということで、今回の実証実験の機会を得頂戴することになった。具体的には「搭乗前の待ち時間でのストレス軽減」「機内誌を読むきっかけ作り」に関する2つのサービスを試行的に実践する、というものだ。

 春学期の集大成として行った7月のプレゼンから実施の12月まで、学期を越えた取り組みになった。本学の課題解決型授業は、高年次教養教育としての性格を持つものであり、3年次以上の学部も学年も異なる学生たちがグループとなって活動した。聞けば、ティッシュやポップに必要な印刷の発注や業者の選定もすべて学生が行ったそうだ。ポップに至っては社会実験の前日に学生の手元に届いたとか。
 授業やゼミ活動、課外活動、アルバイトなど忙しい学生生活の中で、学生を駆り立てたものは何だったのだろう。当日の様子を取材してくれた職員が教えてくれた学生の言葉が胸に刺さった。

「座学も大事ですけど、今回はなにより本当に楽しかった。実証実験は、授業以外での活動になるから負担になる部分がなかったわけではないけれど、自主的に学べました。」

「スカイマーク社の社員さんがなんでも受け入れてくれた。それがとても有難かった。会社に入ったら決まりがあってそれを守るのはもちろんだけど、自分が社会人になっても決まりを守りながら自由な発想を活かした提案ができるようになりたい。」

 アクティブラーニングの性格を持つ「プロジェクト学習」は、学生の主体的な力を引き出す授業である。本学に限らず、どの大学でも「学内の教室で」「教員が教壇から講義」を行う、いわゆる座学がまだ一般的であり、多くの大学人はそれを良しとしてきた。

 現代社会が抱える諸課題に対して、関西大学の教育は果たしてこのままで良いのだろうか。変化を続ける社会に対して柔軟に対応できる、そして挑み続けることができる能力を育むための教育に取り組む必要があるのではないだろうか。授業を提供し、試験を受けさせ、そして卒業をさせるという、学生にとって受動的な取り組みの連続で自然に主体的な力が身につくほど簡単な話ではない。

 リアルな社会を学ぶために、企業や地域社会との連携活動を経験して、いずれ学生自身が飛び込んでいくであろう社会と向き合うことは、これまで見てきた世界とは違った、社会に対する新しい知見とまなざしを持つ契機となる。「プロジェクト学習」のような取り組みにおける成功と失敗の経験は、学生自身の学ぶ意欲をかき立てることにつながるはずである。

 ただ、このような取り組みはあくまでもきっかけにすぎず、学生自身が自主的・自発的に動こうと思えるかどうかが重要なのではないか。これからの長いライフステージの中でそれを支えるものはいったい何であろうか。

 それは、ありきたりな言葉だが、やはり「好き」という気持ち。学生のみなさんには、「好き」を見つける時間ときっかけが学生生活の中には、たくさんあることに気づいてほしい。それは大学の授業なのか、海外留学なのか、たまたま訪れた旅先での経験なのか、地域社会での取り組みなのか、アルバイトなのかはわからない。少なくとも関西大学がその扉を閉ざすようなことはなく、学生自身が「好き」を見つけ、情熱を注ぐことができる環境を提供することが重要なのだ。

 この写真の学生たちの笑顔が、「好き」を見つけることができた一瞬であるのであれば、大学としてこれ以上の教育成果はない。このような取り組みの効果を測ることは容易ではないが、5年後、10年後の学生たちの活躍が社会から評価を受けることになり、ひいては関西大学の教育の取り組みや方向性が評価を受けることになる。学生たちの笑顔が本学の教育の羅針盤の一つではないか。今回の社会実験は私たちにそう教えてくれているように思う。

 最後に、今回のこの実証実験を行う際にご協力いただいたスカイマーク社の皆様に対しては、学生に貴重な機会と経験を提供していただいたことに深く感謝申し上げます。


12月18日 学長 芝井 敬司

ティッシュを配る学生
ティッシュを配る学生
今回、社会実験に臨んだ学生のみなさん
今回、社会実験に臨んだ学生のみなさん