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芝井学長の読書の薦め「新入生に贈る100冊」
関西大学 × 紀伊國屋書店 × 丸善雄松堂
教育後援会 会報編集部

2018年4月の関西大学入学式は、これまでと少し様相が異なりました。式辞で芝井敬司学長は「本や新聞を読まない人を、まさか人生の伴侶にしないでしょうね」と、強い調子で活字に親しむよう求めたのです。国公立や私立大の入学式でこれほど明快に「読書の薦め」をアピールしたのは異例です。その事情や過去の経緯をひもとくと、関西大学の学生や保護者の皆さん方の読書にかける熱い思いが伝わってきます。
学長の式辞全文は保護者らがご覧になる教育後援会の会報『葦』の今春号に全文掲載しましたが、その一部は式直後の読売新聞と毎日新聞にニュースとして紹介されました。また産経新聞は5月中旬、文化欄で学長が大手書店と協力して「新入生に贈る100冊」を選び、そのパンフを入学式で新入生約7千人全員に配布したのを報じました。
各紙とも注目したのは、全国大学生活協同組合連合会が今年2月末に発表した、大学生に関する読書調査でした。調査は毎年行われるもので、今回は2017年10月〜11月、全国の30大学の生協で行われ、1万人の学生が回答しました。

大学生の「読書時間ゼロ」は53%

それによると1日あたりの読書時間は「0分 53%」「30分未満 10%」「1時間未満 17%」「2時間未満 13%」で平均は23分でした。「読書時間ゼロ」と回答した学生はこの5年間で18・6ポイント増えています。増えた理由が問題なのですが、多くの人が予想する「スマホの使いすぎ」ではなく、「高校までの読書習慣の影響が大きい」というのが、生協連や専門家の見方だそうです。

「100冊」パンフは保護者にも配布予想外の反響

新入生へ配布された「100冊」パンフは、実はこの日、入学式を隣の体育館の大型画面で見学した5千人の保護者にも配られました。また式辞で学長が「4月23日は〝世界、本の日〟。ご子女の入学を記念して、えりすぐりの1冊をご本人にプレゼントしてください」と呼びかけたせいもあったのでしょう。式後、このパンフをもって「帰りに梅田の書店で本をさがします」という夫婦もいました。
またその後も、パンフを知った保護者らから「分けて欲しい」との予想外のお申し出が相次ぎました。中にはご自分の勤務する企業の若手社員に読書してもらうツールとして使おうとした父親もおり、大学から250部ほど贈りました。

学生自身の「読書の薦め」関大図書館でPOPづくりも

若者の活字離れをなんとか防ぎたい、という試みは実は学生の中にもあります。そのひとつが関西大学総合図書館を拠点に活動する「KUコアラ」という学生グループです。図書館を使いやすいようにするため自分たちの目線で活動しています。学生だけで選んだ本を特集する「特集本展示」や、紀伊國屋書店と共催の「POP講座」、図書館にある本を紹介する「コアラ通信」の発行などを行っています。
「特集本展示」では、例えば昨年11月末から半月間、コーヒーをテーマにした15冊をコアラの学生が選んで展示したら、貸し出し回数は計23回でした。リーダー格の学生は「私たちが推薦本のポップも作るので、そういう効果もあって思ったより学生に読んでもらっている感じです」と話します。

教育後援会が寄贈した「学生文庫」

活動の舞台となっている関西大学総合図書館自体にも、読書に対する保護者らの思いが詰まっています。例えば戦後の混乱期の1949(昭和24)年1月、当時、全国の大学でも珍しい開架式図書室が設置されました。「開架式」とは「誰でも自由に本を取り出して、内容をチェックできる書棚」のことで、戦前の日本では珍しい方式でした。
関大のその書棚は「学生文庫」と名づけられ、最初の書籍数はわずか700冊でしたが、教育後援会が毎年多額の寄付を行い、蔵書数は1958(昭和33)年時点で7489冊に及び、この文庫の利用率は他の書棚の2倍に達したといいます。

電子ブックの登場

関西大学の図書館では今春から新しいサービスが始まりました。電子ブックの提供です。4月から半年の期間限定ですが、大手書店の紀伊國屋書店、丸善雄松堂とタイアップして、両社の提供する約4万タイトルの電子ブックを無料で、パソコンなどを使いながら読めるサービスです。
サービス開始から40日間の使用データを分析すると、興味深い「関大生気質」がうかがえます。4万タイトルを提供している丸善雄松堂のデータのうち、アクセス数の多い上位50冊を見ると①授業の教科書、参考書と指定されている書籍、②留学生が使う日本語学習教材、③英語などの外国語を学ぶための教材、④就職活動関連の資料やハウツーもの、⑤コンピュータやネットに関連した情報分野の書籍、が目立ちます。つまり、関大生は結構まじめに電子ブックを利用しているようです。

下宿生歓迎会にも学生の活字力

こうした関大生の活字力は、教育後援会が絡んだイベントにも生かされています。今年4月4日、一人暮らしを始める新入生を対象に本学で初めて開かれた「新入生歓迎の集い」がそれです。この日全員に配られた『大阪環状線』(32頁)というパンフは、環状線を知らない学生にとっては必携で、大阪駅など19駅の周辺の「通天閣が2本見える特別スポット」や「玉造の電車ビル」などが紹介されています。総合情報学部岡田朋之ゼミの3年次生の女性二人が「足まめ」に取材し執筆した労作で、JR西日本が1万部を印刷して各駅で配ったのもうなずける優れものです。

女子モトクロス選手の場合

この活字力のDNAは同じ学部の2年後輩にも受け継がれています。2年次生の久保まなさんです。読書が好きで、今秋の読書週間の前に全国紙が募集する「学生記者の読書体験」特集に応募して採用され、9月の紙面で掲載される運びだそうです。
久保さんはモータースポーツの中の女子モトクロス競技のプロ選手です。去年は全国ランキング2位。今年は6月現在4位だそうです。競技の合間に本を読むのが、心が安らぐひと時だといいます。応募した記事はこういう読み方を紹介したものだそうです。読書のきっかけとなったのは、母親の勧めだったそうで、保護者のみなさんも学生の読書と無縁ではないようです。

レース場でも愛読書を開く久保さん

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