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第17回マイノリティ・セミナー

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第17回マイノリティ・セミナー
「中国貴州省苗族の林業経営・紛争処理と森林保護」

                      
 中国貴州省の黔東南苗族侗族自治州は、中国で最も多くの苗族が集住する地域であり、同時に森林被覆率の高い地域として知られる。また同地域の苗族は、清朝統治下の18世紀には山林経営のために交わされた契約を文書化し、さらに「榔規」または「侗款」と呼ばれる村の決めごとを碑文に刻むなど、漢族の文化的ツールを活用して村の秩序維持を図っていたことが明らかとなっている。

本セミナーでは、同地域での調査・資料収集を重ねて多くの貴重な資料を収集・分析しておられる山口大学経済学部教授の陳禮俊氏をお招きし、貴州省苗族コミュニティにおける林業経営・紛争処理に見られる特徴と森林保護との関係についてご報告いただき、この陳氏の報告に対するコメント、および質疑応答がなされた。コメンテータとして、現代中国における森林政策を専門とする森林総合研究所研究員の平野悠一郎氏を、また、現代中国法を専門とする兵庫教育大学准教授の坂口一成氏をお招きした。

 陳氏の基調講演によれば、現在の貴州省苗族コミュニティにおける村規民約のルーツは「榔規」や「侗款」にあり、これらは「議榔」と呼ばれる議論方式によって定められ、村レベルの規範の一つとして機能していた。「議榔」における決定は、村民が広く参加して議論することが前提となっており、このような参加型アプローチによる資源管理が森林保護において有利に働いたとみられている。「議榔」における決定は、碑文として刻まれるまでは「寨老」と呼ばれる村の長老によって口承で後世に伝えられていたという。これが石碑に記されたことが確認できるもっとも古いものは、清代の乾隆50年(1785年)頃のもので、この石碑の内容には樹木伐採の禁止に関する定めも含まれている。

 また、林業経営に関しては、スギなどの造林の際に食料作物を間作する契約が多くみられたとされる。これにより、山の所有者は荒れ山を効率よく収入源とすることができ、他方で小作は食料作物による収入のほかに成長した林木の売買収益の一部を得る権利を獲得してきた。

陳氏は、このように現地の状況に適した慣習や風俗に基づく村規民約や林業経営方式は、森林保護や持続的発展と言う側面からも尊重されることが望ましいと述べ、また、少数民族の伝統的な慣習法のなかで国家法に反映されるべき要素を抽出することが重要であるとまとめられた。

 コメンテータの平野氏は、共産党政権による土地改革から現在までを7つの年代に分け、それぞれの時期における森林の権利関係の変化を概説したうえで、1990年代以降の森林管理政策の特徴を指摘した。平野氏によれば、集団所有の林地請負経営権を農民世帯に与え、林地境界の調査・確定にもとづく登記と林権証の発行を徹底するという政策が中共中央および国務院から出され、林地請負経営権や林木所有権の流動化(移転)も認められている。このような権利関係の変化とその背後にある森林政策が、陳氏の主張するコミュニティにもとづく資源管理をより困難なものにする可能性も指摘された。

もう一人のコメンテータである坂口氏は、中国語の「習慣法」を日本語で「慣習法」と訳す際の注意点を、「慣習規範がどのような条件の下で法規範になるか」という視点から指摘された。また、「少数民族の慣習法」と呼ばれるもののなかには、漢族の慣習法にも当てはまるような、およそ慣習法一般の特徴があるのではないかと指摘された。さらに、村民委員会組織法によれば村規民約によって財産権等を侵害することはできないはずであり、このような国家法と村規民約との「国家法上正当化できない」関係をどのように捉えるか、という問い呈された。

最後に、これらのコメントとフロアからの質問に対する陳氏からの応答がなされた。

櫻井 次郎(関西大学マイノリティ研究センター特別任用研究員)

 


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