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第14回マイノリティ・セミナー

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第14回マイノリティ・セミナー
「千葉理論の到達点と課題」
「法と開発の多様化と進化-アジアにおける動向と影響の検討」

                      
第14回マイノリティ・セミナーが、2011年度アジア法学会研究大会との共催により、富山大学にて6月18日(土)から同19日(日)の日程で開催された。

第一日はミニ・シンポ「千葉理論の到達点と課題」と題し、故千葉正士氏の提唱した「アイデンティティ法原理」と「三つのダイコトミー」論を検討するセッションが設けられた。孝忠延夫・マイノリティ研究センター長による司会の下、はじめに角田猛之・関西大学教授による企画趣旨の説明がなされた。すなわち、2009年に逝去された千葉氏の法文化論について、アジア法、法人類学、法文化学の視点から、それぞれ再検討を試みるというものである。続いて、飯田順三・創価大学教授による「千葉・法文化論とアジア」と題する報告がなされた。創価大学には千葉氏の寄贈した書籍及び文書が残されていることから、これを手がかりに千葉氏の法思想の独自性を浮き彫りにした。さらに、千葉理論を理解するためのキーワードについて紹介した上で、千葉理論のタイ法研究への応用等が報告された後、千葉氏がアジア法研究に期待を寄せていたことが示された。第二報告は石田慎一郎・首都大学東京准教授による「千葉・法文化論とアイデンティティ法原理」と題するものであった。石田氏はまず「3ダイコトミー」論と「アイデンティティ法原理」の内容及び意義、さらには3ダイコトミー論の中の「法規則・法前提」ダイコトミーに関する補正について述べた上で、ケニア西部グシイ社会における婚姻問題について、3ダイコトミー論に基づく分析を報告された。そして、実証レベルで捉えることの困難なアイデンティティ法原理の捉え直しを提示した。角田猛之・関西大学教授による第3報告は、「千葉・法文化論と総合比較法学」と題するものであった。千葉氏の提唱した総合比較法学について、その担い手は学問上は法社会学、法人類学および法哲学であることなどを紹介した。その上で、アイデンティティ法原理を「究極の法前提」とし、これをより精錬するための考察を紹介した。三報告の後、フロアからは、アイデンティティ法原理の具体的な抽出可能性、千葉理論の慣習法分析における有用性などについて活発な意見および質問が出て、千葉理論とその背景に対する高い関心をうかがわせるものであった。

第二日は、「法と開発の多様化と深化―アジアにおける動向と影響の検討」と題するシンポジウムが開催された。はじめに島田弦・名古屋大学准教授から趣旨説明として、「法整備支援の多様化の様相」と題した報告が行われた。まずシンポジウムのテーマの概要を示した後、法整備支援の拡大について説明がなされた。さらに、法制度改革支援の変容としてボトムアップ・アプローチの採用及びその背景が具体的事例とともに示された。最後に当該アプローチの問題点が示された。第1報告は、松尾弘・慶応義塾大学教授による「『法と開発』の経過と理念の変化」と題するものであった。松尾氏は、まず「法と開発」の理念の変化について時系列的に跡付けた。とくに1980年代から1990年代においては「法の支配」観念に焦点を当てて詳述した後、2000年代以降の「法の支配」の主流化について紹介した。さらに、権威主義と「法の支配」との関係性について「新開発国家」論を元に考察した後、これらをふまえて「法と開発」あるいは「法の支配」の将来について議論を展開した。金子由芳・神戸大学教授による「法整備支援の批判的検討」と題する第2報告では、「法と開発」とは「開発」を観察の手段とする法変化の実証研究であるとした上で、開発価値に応じて法整備支援の目標に相違が生じることなどを提示した。さらに、法整備支援における「評価」について、アウトプットレベルでの評価とアウトカムレベルの評価では異なることを示し、最後に法変化の観察の視座について論点を提供した。第3報告のV.テイラー・オーストラリア国立大学教授は、「The Post 9/11 Securitization of Rule of Law Promotion」と題し、9/11以降の法的支援から「法の支配」促進支援へのパラダイムシフトについて跡づけた後、「法の支配」支援について具体的事例を紹介した。そして、9/11以降の法整備支援における安全保障の視点について提示された。桑原尚子・高知短期大学教授による第4報告は「法整備支援における受入国側のイニシアティブと抵抗」と題し、ウズベキスタンでの法整備支援の背景説明及び法移植の実践のあり方をもとに、法移植へのイニシアティブと抵抗について検討したものであった。

この後各報告者に対して「開発」のとらえ方、支援受入国側の姿勢などについて多数の質問が出され、白熱した議論が展開された。
(紙幅の都合で副題は割愛した。)

浅野 宜之(大阪大谷大学准教授)

 


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