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第16回マイノリティ・セミナー

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第16回マイノリティ・セミナー
「多文化主義-社会集団・文化・仕事」

                      
多文化主義に関する共同研究を行っているグルノーブル・スタンダール大学よりトロワヴァレ教授を招いて、今日の欧州における多文化主義の問題状況についての講演会を開催した。トロワヴァレ教授は、近年の欧州における「多文化主義の失敗」という総括に対して、いかに反論し、対抗してゆくべきか、という明確な問題関心の下に、移民問題を中心とする欧州の多文化主義を論じた。講演会には、センターの研究員のほか、関西大学の教員や学生・院生も参加し、保守派ポピュリストの台頭する政治的状況下において、政治的演出のために容易に標的とされるマイノリティの地位がいかにして守られていくべきであるかという、焦眉の問題についての討論を行った。

欧州では、移民に対する排外主義的な政策を前面に出す右派政党が次第に多くの支持を集めるようになってきている。このような風潮は支配的政党にも及んでおり、最近では、メルケル独首相やキャメロン英首相が相次いで「多文化主義の失敗」を示唆する発言をおこなった。このような多文化主義への批判や排外的移民政策の支持は、(とりわけイスラム系の)移民の流入が、社会の安全を脅かし、また失業率を増大させている、という通念によって支えられている。

このような反多文化主義の風潮に対して、トロワヴァレ教授は、二つの方向の議論によって反駁しようとする。第一に、欧州とは、そもそも多文化的な社会である、ということを強調する。そこでは、多様な文化が様々なレベルで混交してきたのであり、純粋な文化などは全く存在しない。個人は多様な文化的アイデンティティを有しており、それゆえ、すべての人は何らかの意味においてマイノリティである。第二に、現在の危機の原因を移民問題に短絡的につなげることを批判し、中長期的な資本主義社会の危機という構図のなかに移民の問題を位置づけようとする。移民の存在が社会を危機に陥れているのではなく、社会的な危機が、移民の存在を「問題」化しているというのである。その背景には、戦後成長を支えた生産様式の行き詰まり、社会保障を支えきれない財政状況、失業率の増加傾向などがある。社会的な危機の中で、もともと法的な保護・保障から遮断されていた移民の地位は急速に悪化し、それが社会をさらに不安定化させる。

トロワヴァレ教授のメッセージは明確だ。私たちは、多文化的な社会を生きざるを得ないのであり、その一部分を攻撃して危機から目をそらすのではなく、危機のなかでいかにマイノリティ(それは自分でもある)と共存するかを探る必要がある。

西 平等(関西大学法学部准教授)

 


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