Kansai Univ
 
第15回マイノリティ・セミナー

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紀要

ニュースレター

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最終報告書

 

 

 

ニュースレター

紀要

 

CMS研究会・研究員会議in長崎
(2011年2月21日、長崎県立大学シーボルト校)

                      
 今回の研究会は、日本における「民族」的マイノリティないし宗教的マイノリティを考える上での歴史的な縁の深い長崎の地で実施されることとなった。開催にあたって長崎県立大学シーボルト校の徐賢燮教授と岡克彦教授には、研究会の教室や懇親会場、さらには長崎市内との移動手段の確保等で多大なご尽力を頂いた。ここに謝意を表しておきたい。

 美しく整備された校舎の一角に11人が集い、冒頭、長崎県立大学大学院国際情報学研究科長の瀬端孝夫教授による開会挨拶、さらに孝忠センター所長による講師紹介を経て、研究会は開始された。

 第一報告、徐賢燮教授の「潘基文事務総長就任以降の国連における人権問題の現状とその課題」は、第8代の国連事務総長に潘氏が就任して以降の、国連における武力紛争地域における民間人及び女性子供等の保護のための努力、人権理事会の対応、各種人権条約の発効等を概観し、今後の課題として、国連人権高等弁務官、国連ミレニアム開発目標の活動における、開発活動に人権を組み入れる試みを紹介した。報告の中では、韓国総領事など外交官としての経歴や潘氏との交友を通じて知り得た内部情報が随所に散りばめられ、事務総長の「アジア的リーダシップ」をめぐる評価、「油をさしたウナギ」とも評される氏の横顔や、事務総長としての再選に向けた展望にまで話題は及んだ。

 第二報告、岡克彦教授の「韓国における性同一性障害と性差基準の法的模索—性的マイノリティでの人権保障の一局面—」では、第一に、トランスジェンダー問題を通じて韓国における男女に対する「法的境界の揺らぎ」が示され、第二に、韓国における一般法院での憲法解釈の役割と基本権保障の機能、さらに憲法裁判所及び立法府たる国家との関係が検討された。

 岡教授によれば、男女を厳格に区分する韓国の社会においては、住民登録番号においてもジェンダーが明示され、それが私人間の法律行為でも本人確認のために用いられる。したがって性同一性障害者は、戸籍上の性と日常生活における外観上の性との違いが容易に知られてしまう不都合に直面しており、法的な性変更を求める動きに繋がっている。

 さらに岡教授は、性転換による性別変更を容認する法規定が存在しない中、生物学的な性差のみに拘らずジェンダーに着目した判決が2000年代から登場したことに着目する。これらの判決では、幸福追求権という憲法上の規定に基づいたり、戸籍法の記載事項の訂正規定を準用したりして、立法権を侵害することなく、司法解釈による法的空白状態における性的マイノリティの人権救済を意識したものと言える。同時に岡教授は、性転換者の特別法制定の動向や、その問題点等にも言及された。

 雰囲気の良い近隣のカフェでの昼食を挟んで第三報告、竹中千春教授の「盗賊のインド史—帝国・国家・無法者—」は、昨年末に公刊された同タイトルの著作の執筆をめぐるエピソードを手始めに、インド社会における「盗賊の女王」として知られたプーラン・デーヴィーの生涯と近代国家における「闇の奥」の構図が語られた。ボブズボームの『匪賊の社会史』などの研究成果にもかかわらず、近代国家の法秩序においても、政治学の言説においても、「盗賊」という主体とそれをめぐる言説は、周縁化された状態が続いてきた。これに対して竹中氏は、周縁的な領域(インドでは警察権力が踏み込みにくい州境付近)を拠点とする盗賊の活動にモラル・エコノミーとしての機能を見いだし、マイノリティに対して抑圧的に振る舞う公権力(警察・裁判所・地主等)に対抗し、盗みを「復讐」としての正義として解する、プーラン・デーヴィーの論理を内在的に紹介された。

 さらに公権力から見て反社会的なマイノリティたる盗賊団の中にすらカーストが存在し、プーラン・デーヴィーはその中でも最下層出身であり、彼女の活動は、盗賊団内部のカースト構造を打破する下克上的なものとして理解可能であることも指摘され、彼女の差別と抵抗の構造の二重性が伺えた。竹中教授は、このような下克上的な動きに対する上位カーストからの反発として、ヒンドゥー至上主義が勃興しつつあることの紹介もなされた。

 休憩を挟んだ研究員会議では、西平等研究員から、3月に公表予定の中間報告書の一部を紹介しつつ、マイノリティの権利について、権利の担い手による分類と保護目的による分類の二つの基準が示され、マイノリティの権利をめぐる言説の錯綜した状況に補助線を入れる試みが披露された。さらにセンター長からは、中間評価を手がかりに、これまでの研究活動の総括と、今後の共同研究の課題が提示された。参加者相互の意見交換は、懇親会場である長崎市内の季節料理屋に移しても活発に行われた。

安武 真隆(関西大学政策創造学部教授)

 


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