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第22回マイノリティ・セミナー

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第22回マイノリティ・セミナー
「韓国における都市下層と労働の非正規化」

                      
 2012年12月5日、報告者に山口大学大学院東アジア研究科教授の横田伸子氏を、コメンテータに関西大学経済学部教授の森岡孝二氏をお招きして、今日の韓国における都市下層と非正規労働者の現状についてセミナーを開催した。横田氏は2012年10月にミネルヴァ書房から『韓国の都市下層と労働者-労働の非正規化を中心に』を出版しており、本セミナーでも同書における分析枠組みを踏まえた報告がなされた。

 近年の日本において、ワーキングプア(働いてもまともに食べていけない労働者)が若者や女性を中心に増大している。これは、非正規労働者の増大、つまり「労働の非正規化」によって労働者の貧困化が進行していることを意味する。横田氏はこのような日本の現状を踏まえつつも、日本および欧米での正規労働者/非正規労働者という二分法では、韓国の非正規問題の内実は明らかにされないと指摘する。そこで氏は、労働の非正規化におけるジェンダー構造の解明を念頭におき、インフォーマリティという概念を用いて韓国における多様な非正規雇用の実態把握を試みている。インフォーマリティとは、法・制度及び労働組合の保護や規制から排除された雇用及び就業の特質であり、インフォーマリティを強く帯びた雇用や就業は労働条件や処遇において差別される。

 韓国における非正規労働問題の核心は、労働者が法的保護(社会保険や法定企業福利を含む)、労働組合規制から排除されることにある。例えば、韓国の勤労基準法(日本でいう労働基準法にあたる法律)は、5人以上の労働者がいる企業もしくは事業所に適用され、従業員数が4人以下の事業所には1999年から内容を限定して適用された。限定とは、経済的負担などを理由として、解雇規制や労働時間規制について適用除外とされることである。問題となるのは、非正規労働者の臨時職や日雇いで就労する人々のほとんどが4人以下の事業所に包摂され、これらの人々が適用除外に該当し不安定化しているという事実である。しかも、正規労働者の中にも臨時職および日雇い職である者が多く、非正規労働者と同様にやはり零細の事業所で就労している場合がほとんどである。横田氏は、以上の正規労働者内部の不安定就業者を含め、その多くが開発年代(1970年代)に形成された都市雑業層(都市インフォーマル・セクター)と称される都市下層との連続性および共通性を有しており、1998年以降か
らのIMF経済危機を発端として労働市場の規制緩和がなされた結果、非正規労働者が爆発的に増大し社会的格差が拡大したと述べる。しかも、この間の非正規労働者の拡大が女性の賃金労働者化によって支えられ、保護を受ける労働者層との分断構造が強固であることが、まさに韓国労働市場におけるジェンダー格差を形作る主要な要因であると結論付けられたことが印象的であった。

 続いて、森岡氏からいくつかの統計表が提示され、横田報告に対するコメントが行われた。日本と比較して韓国における自営業層の厚さが目立つが、このことと横田氏のいう非正規労働者の増大はどのような関係にあるのか。労働経済論の界隈では一般的となっている内部労働市場論について、企業内部における雇用管理や賃金決定の仕組みは、もはや「労働市場」とは呼べないのではないか、などの疑問点が提起された。

 その後、横田氏のリプライおよびフロアから企業での実務経験を踏まえた質問が出されるなど、問題の核心に迫る議論が展開され、セミナーは盛況のうちに散会された。

中野 裕史(関西大学マイノリティ研究センターPD)

 


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