マイノリティ研究センタープロジェクト総括
「国家形成とマイノリティ」研究班
この研究班は、従来の国家論が国家権力の統制と構成員の動員のために規範的に構成されてきたことを批判的に捉え、国家活動をより包括的に扱う視座の獲得のために各地の国家形成過程に注目してきた。一般に、国家形成過程とは、様々な境界線を(再)設定する営みであり、その過程には、排除、同化、統合の過程が必然的に伴う。したがって、国家形成過程とは、国家の規範的要請から逸脱する者たちをマイノリティにする過程でもあったと言えよう。
以上の理解に基づき、本研究班は、様々な国家形成過程の記述に適合する適切な視座を追求してきた。そのために、地域研究、歴史研究などの分野を異にする研究者が学際的に集められ、それぞれの地域・時代における国家形成とマイノリティ化の相関を解明してきた。具体的には、a)西欧における国民国家形成過程の見直し、b)現代の西欧諸国における国民国家モデルの動揺、c)非西欧圏における国民国家モデルの適応の実態解明が目指され、限られた期間のなかで成果を挙げることには困難も予想されたが、各研究員は一定の成果を上げることができ、本研究班の外縁に同様の問題関心に基づいて扱いうる多くの地域研究・歴史研究との接点を見出したことも収穫であった。
通時的にも共時的にも様々な個別的文脈における国家形成とマイノリティとの諸関係が提示された現段階において期待されるべきは、更なる個別事例の開拓と同時に、従来非西欧圏における国家形成において規範的に用いられてきた西欧起源の国民国家・主権国家概念を、より包括的な枠組みの中に位置づける、比較研究であろう。マイノリティ研究センター自体は本年度をもって終了するが、この展望が、各研究員の間で共有されていくことを願ってやまない。
安武 真隆(主幹 研究統括)
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