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第6回マイノリティセミナー

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紀要

 

第六回マイノリティ・セミナー

主催:アジア法学会 
共催:関西大学マイノリティ研究センター     

「アジア法とマイノリティ」

日時)2009年6月28日(日)9:00~15:00
場所)関西大学千里山キャンパス   
    第1学舎1号館A301教室

第1報告) 内野正幸 (中央大学法科大学院教授)
きわめて不利な境遇の人々―アジア諸国を中心にして―
 
第2報告) 窪誠 (大阪産業大学経済学部教授)
国際人権から見たアジアのマイノリティ

第3報告) 小林昌之 (アジア経済研究所法・制度研究グループ長)
アジアにおける障害者立法の新展開

司会) 孝忠延夫 (関西大学政策創造学部教授・マイノリティ研究センター長)

アジア法学会とマイノリティ・セミナー

2009年6月28日午前9時より、関西大学第1学舎1号館A 301教室で、第6回マイノリティ・セミナーが開催された。アジア法学会が「マイノリティと法」の問題を正面からとりあげた最初の企画に、当マイノリティ研究センターも協力・共催して、このシンポジウムが実現した。
このシンポジウムの企画趣旨によれば、「『マイノリティ』は、『国際』関係のなかで宗教的そして言語的マイノリティとして顕在化した(恣意的にも)。今日、21世紀国民国家のあり方が真摯に問われているとき『マイノリティ』は、『国民』とは何か、『国家』を構成するものは誰かということにとどまらず、『市民社会』(新たに形成されるものとして)の担い手とそのあり方をめぐる問題としても重要なキーワードとなりつつある。すなわち、『人権』論としても『マイノリティ』論が不可欠となる。」とされ、マイノリティの研究は、とりわけアジアにおいて、「法学の重要で不可欠の課題」となっている、と述べられている。
当マイノリティ研究センターが、その研究課題として示した「マイノリティを手がかりとして、多様な『市民』(グローバル市民)が構想する『国家と社会』像を解明する」こと、「従来の『人権』論的アプローチ、社会学的アプローチをふまえつつ、それらの限界を超えるべく21世紀国民国家論(グローバル市民国家論)とマイノリティに焦点をあてる」ということとの共通認識が示されており、「マイノリティ・セミナー」として開催するにふさわしいシンポジウムとなった。このシンポジウムは、3本の研究報告を受け、それに基づく質疑・討論によっておこなわれた。

まず、内野正幸氏(中央大学法科大学院教授)が、「きわめて不利な境遇の人々――アジア諸国を中心にして」と題して報告した。内野氏は、憲法学者として、その主たる研究テーマを社会的「弱者」にかかわる人権論として展開してきた著名な研究者である。内野氏は、まず、タイトルの「きわめて不利な境遇の人々」という言葉の含意を説明し、「生活困窮者とは、極度の貧困におかれた人々のことであるが、その場合『貧困』概念のとらえ方が問題になる。とくに相対的貧困観や社会的排除に留意すると、貧困と差別の問題も浮かび上がってくる。また、ストリート・チルドレンや児童労働に示される子どもたちの貧困の問題も深刻である…」とし、社会的少数者(被差別者)と極貧生活者という属性を併せ持つ「マイノリティ」の問題こそが重要ではないかと指摘し、社会的排除、社会関係の切断の問題とその克服の課題がマイノリティ研究にとって重要ではないかと説いた。


窪誠氏(大阪産業大学経済学部教授)は、長くフランスに滞在し、その研究成果を『マイノリティと国際法』(信山社、2006年)に著した、まさに「マイノリティと国際法」研究の第一人者である。今回の報告タイトルは「国際人権から見たアジアのマイノリティ」である。窪氏は、従来の国際法学における論議、例えば、「普遍的人権」と「アジア的人権」の対立、個人の権利か集団の権利か、という問題設定を挙げ、これらを前提とした「アジア的人権は、集団主義を重んじる伝統に基づく」などという理解そのものが意図的な西欧的思考枠組みの使い分けによる言説であることを明らかにする。窪氏によれば、「実は、西欧の知的伝統こそ全体主義的伝統に他ならないからである」。そして、その考察にあたって、「マイノリティ」問題は、まさに、西欧がその言説の矛盾をいやおうなく露呈するテーマでもあることを具体的に論証しながらの報告がおこなわれた。


最後に、小林昌之氏(アジア経済研究所法・制度研究グループ長)が、「アジアにおける障害者立法の新展開」と題して報告した。小林氏は、障害者法にかかわる比較法・制度研究、とりわけアジアにおけるかかる比較法制度研究の第一人者であり、アジア経済研究所を中心とする「障害者法」にかかわる共同研究プロジェクトのコーディネートもおこなってきた。小林氏は、まず、2006年12月、国連障害者権利条約が採択され(2008年5月発効)、それを受けて各国では新たな障害者立法、改正がおこなわれていることを紹介した。そして、中国の障害者保障法改正(2008年)、韓国の障害者差別禁止及び権利救済に関する法律(2007年)、タイの障害者の生活の質及び開発に関する法律(2007年)、マレーシアの障害者法(2008年)など近年の、とりわけアジアにおける立法動向を紹介し、その実証的な検討をおこなった。また、内野氏の質問を受けて、「障害者とマイノリティ」にかかわる新たな定義づけも報告のなかで試みられた。

討論および残された課題
この3つの報告を受けて、3人の報告者間、コーディネータによる問題設定、フロアーからの質問などが交差する活発な論議が展開された。
内野報告との関連では、「弱者」という概念と「マイノリティ」概念との関係について、人権論的アプローチと民主主義的アプローチにかかわる問題。窪報告に対しては、国際法形成過程における「創られたおよび恣意的に用いられた」とするいくつかの概念についての質問、その前提とする西欧の知的伝統についての理解が共通認識となっていないことからの質疑が錯綜した。小林報告に対しては、紹介された法制度の具体的な内容についての評価が問題となり、「広義のマイノリティ」にかかわる「障害者」の位置づけが論議された(ただし、例えば手話言語者を言語的マイノリティの問題でとらえようとするアプローチには、従来の「狭義の」・「広義の」というマイノリティ論を止揚する可能性も示唆されているように思われる)。
全体としては、一定の事実についての共通認識の必要性、継続的な論議の必要性と論点の明確化が残された課題となった。注目されたのは、従来は「差別・被差別」の問題をマイノリティ論として論じるべきかどうかの論議が中心であったが、このシンポジウムでは、「貧困」の問題をどう位置づけるかが論議されたこと。手話言語は、マイノリティ言語であり、手話言語者は言語的マイノリティかどうかという問題を手がかりに論議が展開できたこと。さらには、従来のマイノリティ論が前提としていた西欧的「虚構」への自覚を促されたこと、など、極めて質の高い論議ができたことである。
今後の課題としては、例えば、「貧困」とマイノリティ概念にかかわり、「屈辱」などの主観的要件と「限定・縮減された」市民権という一定の指標を出しやすい要件とをどのように盛り込んでいくのかなど、具体的に絞った論議ができるような機会を拡げていく必要があろう。

孝忠延夫

 

 

 

 


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