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第1回マイノリティセミナー

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第1回マイノリティ・セミナー

「中国における少数民族と民族政策-Minorities in China」


2008年11月25日、関西大学マイノリティ研究センターの第1回セミナー「中国における少数民族と民族政策」が関西大学にて開催された。セミナーは、午前、午後の2部に分かれ、10時30分より開始された午前の部は、学生・一般向けに、「中国における少数民族政策―チベット族、モンゴル族および回族の立場」を議題として1時間30分開かれた。13時より開始された午後の部は、「中国における少数民族政策研究と文化研究の現状―チベット、モンゴル族および回族の立場から」を議題に、研究者を主たる対象として行われた。


今回のセミナーにおいて、中国から少数民族の講師が三名招かれた。モンゴル族の郝時遠教授は、中国社会科学院で複数の職に従事すると同時に、中国民族学会会長でもある。専攻は中国の民族問題と民族政策研究である。回族の楊聖敏教授は、中国中央民族大学民族学と社会学院長も務められ、専攻は、西域民族歴史文化研究、新疆と中央アジア民族問題研究である。チベット族のシヨニマ教授は、中国中央民族大学副学長、チベット(藏)学研究所所長でもあり、専攻は、チベットの歴史・文化研究である。
今回招聘された三名の教授は、中国に五つある少数民族自治区の三つの自治区を代表し、またそれぞれトップレベルで少数民族問題を研究する学者でもあるため、今回のセミナーは、中国少数民族の状況を理解するに最適な場であったと思われる。


本セミナーのコメンテータを宇田川幸則准教授(名古屋大学法政国際教育協力研究センター副センター長)、コーディネータを孝忠延夫教授(本学政策創造学部、本センター長)が務めた。宇田川准教授は、名古屋大学上海事務所副所長、CALE上海分室長も同時に務められ、長年現代中国における法源階梯の構造の解明をテーマに、現代中国法に関する研究を深められている。


郝教授は、まず、内モンゴル自治区の経済の発展について紹介された。中国最初の少数民族自治区として設立された内モンゴル自治区は、自然資源の豊富な地域であるため、中国西部大開発の波に乗って高度な発展を見せてきた。しかし、このような発展の背後に、畜産業の過度な拡大、鉱物資源の無計画の開発による自然環境の破壊問題が顕著になっている。近年は自治区内で環境保護の一連の措置を取り、その環境は改善されつつある。文化面において、モンゴル族は自民族の伝統を承継しながら、漢民族の文化を吸収し、さらに発展している。これは、中国全土のモンゴル族自治地域での共通の現象であり、このような現象は、中国各民族の文化が現代化の発展過程において、相互に依存し、溶け合う発展の方向性を示唆していると郝教授は指摘された。


シヨニマ教授は、チベット問題の専門家である。同教授は、旧チベットの身分制度、刑事法、宗教・信仰などの面から旧チベット政権を批判し、新チベットの進歩と現状を紹介された。紹介によると、今日、チベット人の教育の普及率は高く、その生活水準の向上は著しい。また、チベット文化遺産の保護も重視され、中国政府はその保護に大量の資金を導入しているようである。チベット族は、固有の文化、風習を維持しながらも、現代文明を取り入れ、その生活をより豊富にしている。シヨニマ教授の紹介は、チベットの人権を問題視する一部の人の主張と対極にあるものであるが、チベット問題を理解する上でもう一つ重要な参考材料になるであろう。


楊教授は、新疆ウイグル自治区の状況を中心に少数民族の問題を紹介された。ウイグル族と漢民族は、新疆全人口の8割を占めているため、上記両民族の関係は、新疆全体の社会的安定性などに大きな影響を及ぼすといわれる。香港の雑誌にウイグル族と漢民族の関係が険悪であるとの記事もあるが、楊教授のアンケート調査結果によると、その両民族の関係は基本的に良好であり、新疆の情勢は、基本的に安定している。しかし同教授は、少数民族と漢民族の文化の相違、経済的格差は無視できず、経済的格差は、文化の相違以上に民族関係に影響を与えると指摘された。楊教授の紹介のなかで興味深かったのは、生活水準が非常に低いタジク族がとても安定した治安環境と高いモラルを有している特殊の事例であった。同教授はこの事例を通じて、「発展」という概念を「経済」的意味に限定することに疑問を投げ、文化の発展を軽視してはいけないことを最後に示唆された。 (R.K)

 


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