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第7回マイノリティセミナー

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第七回マイノリティ・セミナー

「フランス共和主義とマイノリティ」

日 時)2009年12月16日(水)
10:00~12:00  
場所)関西大学児島惟謙館 1階会議室

講演者) 樋口陽一 (東京大学名誉教授・東北大学名誉教授・日本学士院会員)

コメンテータ)小泉良幸(関西大学法学部教授)

司会)孝忠延夫(関西大学政策創造学部教授・マイノリティ研究センター長)

 
日本を代表する憲法研究者であり、諸外国(とりわけフランスなどのヨーロッパ)での多彩な研究交流を培い、憲法学の分野のみならず豊富な学識にあふれる樋口陽一氏(東京大学名誉教授、東北大学名誉教授、日本学士院会員)を講師に迎えて、12月16日、第7回マイノリティセミナーが開催された。


(樋口陽一氏)

樋口氏は、まず、「The人権」ともいうべき、フランス人権宣言(1789年)が、「人と市民」との連関と緊張を内包したものであり、その前提としての「国家」――より厳密にいえばres publicaとしての「公共社会」――が、今日にいたるまで、フランスにとって決定的な意味を持っているということから説き起こした。citoyenを「市民」とした訳語は誤解を招きやすいものであり、政治そのものにかかわること、association politiqueの運用にかかわる主体こそがcitoyenなのだとする。フランス人権宣言は、身分制秩序から一般解放された人一般としての個人が権利主体であることを明確にし、自律した個人に、場合によってはinhumanな生き方に耐えよとも要求し、その意味では「近代」の持つ可能性を示すと同時にその困難さを突きつけたものでもある。その「個人」とは、「金の力」、「宗教の力」などから個人の尊厳を擁護しようとし、「国家」からの自由を主張する主体である。

樋口氏は、フランス「共和主義」という表現をとらない(それは、「…主義」という言葉が若干批判的なニュアンスを込めたものであるからでもあるが)。樋口氏は、「共和国(Republique) 」が君主や皇帝の不在を指すのではなく、res publicaという語源通りの「公のもの」、「公の事柄」、そのようなものとしての公共社会をさすものであることを強調する。


フランスのこの「公共社会」も、グローバリゼーションの進行のなかで、その生き残りを左右するほどの問題を抱え始めている。樋口氏は、具体的な考察の手がかりとして2つの例を挙げた。1つは、アファーマティヴ・アクションを行なうためにエスニックごとの統計をとることの是非であり、もう1つは、夫が婚姻前の妻の性経験を理由に婚姻無効の訴えを提起した事例(夫婦はムスリム)の判断、の2つである。樋口氏は、それぞれの分析を行ない、グローバリズム、ポストモダン思潮の波の中で、フランスに特殊な意味でのres publicaは、近代憲法を論ずるにあたっての普遍性をもつのではないだろうか、と説かれた。


(小泉良幸氏)

樋口氏の講演に対するコメントを行なった小泉良幸氏(関西大学法学部教授)は、メルティング・ポットかサラダ・ボウルなのかという樋口氏の発問を引き受ける形でコメントを始めた。そして、樋口氏が詳説したフランスの論議を日本に引き取ったとき、憲法解釈論上どのような違いが出てくるのかを具体的に挙げ、日本においてはエトノス的な「国民統合」をどのように考えるかの問題が重要ではないかと述べた。さらには、(ドイツ的な論議のような)国家と社会の分離を知らないres publicaに、個人としてどのような立ち位置をとるのか、をも問題とした。いわゆる「社会的権力」に「世間の風向き」なども入るとすれば、そこから自由な個人のあり方とはどのようなものがあるのかなどの質問も出された。


さらに、会場からは、樋口氏の問題設定からアプローチするとき、「マイノリティ」および「マイノリティ問題」はどのように位置づけられるのか、という問いも出された。立憲主義の「闇」とされるもの、あるいは反コロニアリズムからの申し立てにどう応答するのかという問題でもあろう。
限られた時間のなかで、論議は十分に尽くされたとは言い難いが、今後のマイノリティ研究にとって示唆に富む多くの論点が正面から提示、論議されたものとなった。

            孝忠延夫(マイノリティ研究センター長)


(孝忠延夫氏)

 

 

 

 

 


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