KANSAI UNIVERSITY

関大研究STORIES SCIENCE TECHNOLOGY LABORATORY STORY

乳酸菌の「創造物」とは?
腸内細菌研究に新たな視点を

化学生命工学部 生命・生物工学科 生物化学工学研究室
山崎 思乃 准教授

研究テーマ

乳酸菌が腸管免疫系を活性化するメカニズムを究明し、
保健分野での新たな利用価値を探る

私たちの健康に良い影響を与える乳酸菌やビフィズス菌。山崎准教授はこれらのうち、病原体の侵入を阻止する免疫グロブリンA(IgA)抗体を多くつくらせる株を探索し、特定しました。さらにそのメカニズムを研究するなかで、乳酸菌から放出された膜小胞「メンブランベシクル(MV)」がIgAの産生を促進している事実を発見。発酵食品に含まれるMVや腸内細胞からも出されるMVに着目した、これまでにない新たな腸内細菌研究にまい進しています。

多くのIgA抗体をつくらせる優良株を探し出す

私たちの腸には100兆個もの細菌が腸内細菌叢(腸内フローラ)を形成し、健康維持に大きく関与しています。全身の免疫細胞や抗体の約6割が集まる腸管は「体内最大の免疫器官」とも呼ばれ、免疫細胞により粘膜上に産生されたIgAと呼ばれる抗体が働くことで、病原体の体内への侵入を阻止しています。なかでも山崎准教授が主として研究を続けてきた乳酸菌は、腸内フローラのわずか1%に満たない数でありながら腸内環境を改善し、免疫系を調節して感染を防御。アレルギー抑制にも携わっています。しかも生きている菌だけでなく、死骸にもその働きをもつものがあるというから驚きです。山崎准教授は多様な乳酸菌群をひとつひとつ丹念に調べ上げ、IgA抗体を特に多く誘導できる数種類の乳酸菌を特定。それらがIgA産生にどう影響するのかについてのメカニズム研究にも着手しました。これまでの研究報告によると、細菌による免疫調節作用には、主に菌の細胞壁の成分や核酸などが関与するとされています。そこで山崎准教授も細胞壁を重点的に調べることからスタート。腸管免疫系を活性化させる乳酸菌株を培養し、免疫細胞と混ぜてIgAの増加を観察するという地道な実験を繰り返し、どの成分がIgA産生に関与しているのか、解析を続けました。

「乳酸菌の調子が悪い」。
非科学的結果から導き出したMVの存在と機能

しかしある日、実験を担当していた学生から、「菌の調子がいい時と悪い時がある」と報告を受けます。非科学的な表現ですが、確かに同じ菌でも、IgA量の上がり具合が日ごと異なるという結果は、サイエンスの基本である再現性が得られないものでした。培地から遠心分離で菌を集めると、色の異なる2層に分かれる。実験中に汚染されたのかもしれない…。学生の言葉に意気消沈しながらも、考えられる原因を探していた時、細菌が放出する数十から数百ナノメートルという微小な膜小胞「メンブランベシクル(MV)」の存在を知ります。以前より、表面が膜構造からなる菌がMVを放出することはわかっていましたが、乳酸菌のように厚い壁構造をもつ細菌はごく最近までMVを出さないと考えられていました。「沈殿が2層に分かれる原因はこれかもしれない」と、早速MVを分離し、実験を再開。「培養液中に乳酸菌がつくったMVを確認し、IgA産生促進作用も実証しました。おそらく世界的にも革新性の高い研究だと思います」。山崎准教授は、再現性が取れない理由を考え、何度も実験を繰り返した学生の功績が大きいと喜びます。「研究とは地道で泥臭く、9割方失敗するものです。でも失敗の原因を考え抜くと新しい発見がある。失敗を恐れるなと学生に言い続けています」。

緒に就いたMV研究。
未解明なことがらが示唆する可能性

MVに関してはまだわからないことばかり。その分、考える余白も残されています。例えば、ヒトにプラスに働く乳酸菌株のMVは、菌と同じ特性を身にまとっているのではないか。膜成分で覆われているMVは、同じく膜構造をもつヒトの細胞と親和性が高いのではないか。だとすれば、免疫賦活成分を効率的にヒトの細胞に伝達できるのではないか。事実、MVには核酸やタンパク質といった細菌の重要な情報が詰め込まれています。そしてこれらの情報が、細菌同士だけでなく、細菌と宿主の細胞間の相互作用に関わっているはずです。
山崎准教授は、今後開発が進むであろう粘膜ワクチンの増強剤として、乳酸菌MVが有効なのではと言います。粘膜免疫系を効率良く活性化することができ、安全性も高いと考えられるからです。さらに注目しているのが発酵食品に含まれるMVです。「発酵食品にも、発酵をもたらす細菌がつくったと思われるMVが多く含まれています。MVは代謝をコントロールする核酸や酵素をもっているので、宿主の細胞に入った時に影響しないはずがない。腸内でのMVの働きを知り、腸内環境をコントロールすることが、今後の大きな目標です」。研究が進む細菌の陰でほとんど注目されてこなかったMV。それでも最近は、多くの細菌がMVをつくり出していること、ヒトの細胞もMVと同じようなエンドソームと呼ばれる膜小胞を産生することなどが報告されつつあります。何兆個とある菌がMVをつくるのですから、もはやMVは無視できない存在であることは間違いありません。山崎准教授をはじめとする先駆者によって、今はまだ知られていないMVの機能がより解明され、私たちの健康維持に貢献する日はそう遠くないかもしれません。

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