KANSAI UNIVERSITY

関大研究STORIES SCIENCE TECHNOLOGY LABORATORY STORY

判断の最適化から、優しさの再発見まで
人とAIの新たな共生を拓く

総合情報学部 脳知能情報学研究室
林 勲 教授

研究テーマ

暮らしや社会と融合し、高め合えるAIモデルの開発研究

2016年、文部科学省が大学におけるデータサイエンス教育の強化方針を打ち出すなど、今やAI技術は、産業界はもちろん、幅広い分野で最重要テーマとなっています。ニューロ・ファジィ理論の生みの親であり、AIの教育・研究の最先端を走り続ける林教授は、AIの高度な活用による産業実用化モデルの開発をはじめ、人はどうすればAIをより良く活用できるのか、という新たな共存の実現にも熱い想いで携わっています。

ラックボックス化するディープラーニングへの不安を
プロセスが見える「if-then」ルールで払拭

林教授が学生時代から研究してきたファジィ推論は、「if-then」ルール、つまり「もし~をすれば、~を行う」という、条件と実行をつなぐフォーマットによって知識を「見える化」するAIモデルです。しかし、ネクタイの結び方や自転車の乗り方といった毎日の動作や,さらに複雑な自動車の運転の知識を「if-then」にまとめようにもすぐには思いつかない「見えない知識」です。そこで林教授は、これらの動作を実際に行ってデータを取り、そのデータから自動的にフォーマットを作ってくれる「ニューラルネットワーク」を開発。人間の脳と同じ学習機能をもつニューラルネットワークと見える知識化のファジィ推論を融合させた「ニューロ・ファジィ」を提唱し、多様な応用研究に取り組んでいます。
いま、世の中は第3次AIブームだといわれます。ニューラルネットワークが多層化によって進化し、そこに計算機のチップの高速化・大容量化が重なったことで、大量のデータ学習が最適化できる「ディープラーニング」が登場。認識・判断・制御を瞬時に行う車の自動制御の実用化などに貢献し、一躍脚光を浴びました。しかし、これらの学習モデルは、データを入力すれば、あとは結果が出るまで機械まかせのブラックボックスです。途中のプロセスが外からは見えないため、便利な反面、機械が暴走する不安がつきまといます。一方、林教授が取り組むニューロ・ファジィは、「見えるAI」。判断のプロセスにif-thenルールを組み込むことで、機械が異常な動きをした場合も問題の箇所を追跡し、ストップをかけることができます。見える知識を使って学習も行う、ミックスされたモデルにこそ優位性があるのでは、と林教授は感じています。

AIモデルにおける判断の精度を研ぎ澄まし
経済効率の向上に挑む

現場に導入されたAIモデルには、判断の精度をより高めることが求められます。林教授の研究室では、この課題をユニークな着眼点で乗り切る理論も展開しています。例えば、あるプラント工場では、常に最適な火力に微調整することの費用は莫大です。しかし実際はほとんどが正常な一定の数値で稼働しており、異常な燃焼を示すサンプル数は極端に少ないのが通常です。そのため、既存のデータだけでは、より緻密な最適解を割り出すことが困難になります。そこで、あえて実際にはない仮想データを作り出し、見かけ上のサンプルを増やしていきます。こうすることで、本来データのないところにも滑らかに、最適な火力の識別線を引くことが可能になります。そして、引いたその識別線が正しいかどうかを、今度は実際に計測したデータと付き合わせて判断し、さらに調整していきます。このようにAIモデルによって最適な識別解を連続して推論していく「ブースティング推論」は、例えば各国の女性たちのファッションの好みを分析するなど、多方面での応用が可能です。しかもニューロ・ファジィの「if-then」ルールが適用されるため、どういう理由で判断し、分析結果に至ったのかが「見える化」されます。

戦略を練るAIコーチや、人を成長させるロボット
共生の新たな形を示唆する先進研究にコミットし続ける

関西大学で卓球部の顧問も務める林教授は、このAIモデルをスポーツ情報学、例えば、卓球に生かしてみようと考えました。卓球は、ボールの軌跡の「認識」と、どう打ち返すかの「判断」、そして技を繰り出す「制御」の連続です。強い卓球選手は、数々の攻撃パターンの中から、目の前の対戦相手が苦手とする戦略を瞬時に判断する力にたけています。林教授はこの判断のプロセスにブースティング推論を活用してはどうかと考えています。対戦相手がどんな回転のボールをどこへ打ち返し、勝ったか負けたか、といったデータをあらかじめAIモデルに入力してパターンに分類。これをもとに撮影した実際の試合データを分析すれば、その場でベストな戦略を推論できるというわけです。
今後さまざまなスポーツでAIコーチの活躍を夢見る林教授は、オムロンとの共同研究による卓球ロボット「フォルフェウス」の開発にも2018年3月から関わってきました。このロボットが興味深いのは、勝つためではなく、人の能力を引き出すというのをコンセプトにしている点です。相手のレベルを推論し、上質なラリーを続けることで、選手を自然に上達させる「人に優しい」ロボットを目指しています。これはオムロンが目指す人と機械の未来像である「人と機械の融和」を体現したものです。「人に何かを教えるとき、私たちはつい一方的になりがちです。でもこのロボットは、相手の力量に合わせて強弱をつけて教えてくれる。選手を楽しませながら成長させてくれる。ロボットと選手との相互理解なのです。そうすると、今度は自分が相手にどうふるまうべきかを考える。相手のことを理解して思いやりを再発見するのです」と林教授。卓球ロボットには構造上打ち返せない苦手なコースがあり、対戦するとすぐにわかるそうです。しかしロボットの「優しさ」に触れた選手は、弱点を狙わずフェアに対戦しようとする。そんな心が通う関係をロボットと人がもてるのでは、と期待しています。
林教授の研究室が取り組む「AIによる判断」は、応用範囲がとても広い根幹技術です。AIに仕事が奪われる、と危惧する人もいますが、規則的で簡単な判断は機械に任せ、人間は複雑でより高度な判断を行うという役割分担も有効でしょう。ロボットをパートナーととらえ、コーチングの参考にする。林教授が描くAIと迎える未来像は、温かい可能性に満ちています。

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